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ワガママ王子と悪戯猫(13)

「さて、そろそろ晩飯の準備するぞ。幸、邪魔だ、どけ」 悠さんのお腹が鳴ったのを機に、夕食の準備が始まった。 「私、何か手伝えますか?」 悠さんに訊くと、 「あー、米炊いて。それができたら食卓のセッティングな」 という指示が下った。 幸くんが本格的に寝てしまったので、さっき持ってきた俺の私物の中から大きめのひざ掛けをとってきて掛けておく。 指が痺れそうに冷たい水でざくざく米を研いでいると、後ろからひしっと抱きしめられた。 悠さんかと思ったが、顔を上げると悠さんは離れたところで野菜を切っている。 悠さんより細い腕。振り返ると幸くんがにっこり笑った。 「越野さん、ひざ掛けありがと。暖かかった」 「良かったです。まだ寝ていても大丈夫ですよ」 「うぅん、ここにいる。こうしててもいい?」 「え、ぁ、はい……?」 幸くんは俺の腰に両手をまわして抱きついている。 悠さんまではいかないが、俺よりは背が高いから、抱きしめられている、の方が近いかもしれない。 悠さんが何か言うかなと思ったが、悠さんは焼き豆腐の切り方に真剣に悩んでいて、こちらに気づく様子はなかった。 幸くんに懐かれてしまった。 立ち止まっていると背中に抱きつくし、俺が歩き出すと服の裾を掴んで付いてくる。 俺の邪魔にならないようにしてくれているようだけれど、幸くんの気配が甘々にゃんこモードの悠さんにそっくりで、うっかり額にキスでもしてやりたくなる。ダメだ。これはダメだ。 「幸くん?」 「なぁに越野さん」 「……っ、ちょっと後ろに下がりますよ」 「ふふ。はぁい」 悠さんが見たらきっと何か言うだろうから、そうなる前に離れてもらおうと思ったけれど、にこっとした幸くんの雰囲気が悠さんと同じで、とても離れろとは言えなかった。 ダイニングテーブルの位置がずれていたので、引きずらないように移動させた俺を見て、幸くんが目を丸くした。 「越野さん、細いのに力持ちだね。引っ越し屋さんのバイトでもしてたの?」 「いえ、イベントホールのスタッフです。力仕事が多かったので、こう見えても重いもの運ぶのとか、得意ですよ」 「へぇぇ意外ー」 目をみはる幸くん。 まずい。結構可愛いかもしれない。いや、可愛い。 まるで素直になった悠さんだ。 なまじっか悠さんに似ているので、油断しているとつい悠さんにするように反応してしまいそうになる。 気をつけないと。 悠さんは相変わらず真剣にすき焼きの準備をしていて、こちらに注意を向けることはなさそうだった。 皿を探して食器棚を開けたら、取り皿がずいぶん上の方に置いてある。 ちょっと取りづらかったので背伸びをしたら、横からひょいと手が出てきて皿を取ってくれた。 「……っ。ありがとうございます、創くん」 礼を言って皿を受け取る。 もうやだこの兄弟。 すっと微笑んだ創くんの笑顔は見覚えがある。王子様スマイルの悠さんだ。 「他にも何か取る?言ってもらえれば俺届くから、高いとこのとか取るよ」 「……え、と、あの小鉢を取ってもらえますか?」 「任せて」 これは好待遇なのか、それとも拷問か。 本物がいる傍で、ミニ悠さん二人に挟まれた。 悠さんは相変わらず気づいてくれない。 もう、お豆腐なんて四角でも三角でも適当に切っておけばいいじゃないですか! 助けてください!今にもうっかり浮気しそうです!!

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