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ワガママ王子と悪戯猫(14)

「あれ、颯人ー、買わなかったけど、ガスまだあったっけ」 悠さんがようやく食材から他のことに興味を移した。 「ありますよ。二本あれば足りますよね」 皿を持ったままカウンターの下の収納を開けると、創くんがガス缶を取ってくれた。 そのまま三人で食卓に皿を並べる。 「そっか、あったかー。よかっ……」 やっと悠さんが俺に、というか俺を取り巻く環境に気づいた。 絶句すること三十秒。 「ガスセットしちゃうよ。あれ、できないや。ねえ越野さん、これどうやんの?教えてよ」 「うふふ」 固まった悠さんに気づいてか、気づいてないのか、俺の手を引く創くんに、俺の背中にぴったりくっついた幸くん。 悠さんが状況を理解するのに、更に三十秒かかった。 その間にガスをカセットコンロにセット。 箸も四人分並べた。 「お、お前ら、俺が目を離した隙に……」 悠さんが怒りで赤くなっていく。 「越野さん温かくていい匂いする」 幸くんがほっこりと俺の背中に頬をくっつけたのをきっかけに、悠さんが噴火した。 「颯人は俺のだ!!お前ら手ぇ出すんじゃねぇ!」 ずかずかと寄ってきた悠さんが、双子の手から俺を取り上げる。 ……こうやって簡単に取り上げられる俺も俺だな、と他人事のように思った。 軽すぎるんだな、きっと。よし、太るか。 ◇ ◇ ◇ 新品のすき焼き鍋に牛脂を馴染ませて、鍋が温まったところで具材投入。 鍋がいっぱいになったら、上から酒や醤油や砂糖を、悠さんのさじ加減で入れた。 大丈夫だろうか。 悠さんは鍋よりも、創くんと幸くんを睨みながら調味料を鍋に入れているように見える。 うわ、わ、そんなにお砂糖入れちゃうんですか。 悠さん、自分のやってること解ってますか? あーあー、お醤油だばだば。 悠さんは食べ物を粗末にするような人じゃないとは知っているけれど、これ、味大丈夫かな……。 あ、一応お鍋見てるんですね。 最後の最後で鍋をチラ見した悠さんは、水を適量入れて木蓋を閉じた。 具材に火が通るまで、一時休戦だ。 今は全員が大人しく席についている。 俺の右隣に悠さん、悠さんの前が幸くん、俺の正面に創くんが座っている。 「なーぁー悠ー?何でそんなに怒ってるのさ」 幸くんが箸休めのキュウリの漬物を齧りながら言った。 テーブルの下で、幸くんが伸ばしたつま先で悠さんの膝をつついている。 「足やめろ。……俺がなんで怒ってるか?決まってんだろ。お前らが颯人に手を出したからだ」 幸くんが膨れる。 「そんなぁ。だって越野さんいい人だから、くっつきたくなるの仕方ないじゃん。美人だし」 創くんも反論する。 「手を出したって、俺は越野さんが高いところの食器を取りづらそうだったから、手伝っただけだよ」 「手ぇ触ってたろ」 「あれはガス缶の入れ方が分からなかったから、悠の方見てる越野さんの注意を引きたかっただけだし。越野さん綺麗だし優しいし」 みるみるうちに悠さんが不機嫌になっていく。

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