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ワガママ王子と悪戯猫(19)
来た。
午前一時。
俺は気配を殺して起き上がり、布団を抜け出した。
悠さんが来る様子はない。
とりあえず俺は忍び足で二階の悠さんの部屋に向かった。
音を立てないようにそっとドアを閉め、ベッドに腰を下ろす。
悠さん来れるのかな。
幸くんにくっつかれてるようだったけど。
携帯が鳴った。
『悪い、遅れる』
なかなか苦労しているみたいだ。
ん、また来た。
『でも絶対絶対絶対行くから待ってろ』
ふふ。『絶対絶対絶対』だって。
俺はそんなこと言われなくても待ってますよ。
創くんと幸くんにはこれで会うのは三回目だけれど、悠さんも含めて、羨ましいくらい良い兄弟だと思う。
年が離れていることも大きいのかな。
俺も鏡花姉さんとはわりと仲良くやってると思うけど、悠さん達のように絡んだりはしない。
男女差があるし、こんなもんなのかなとは思う。
……さて、悠さんがまだ来ないのだけれど。
暇だ。
荷物の整理でもしようか。
部屋着と……他所行きと……下着と。
あと、余計なものが入ってる。
昨日寝間着に着せられたシャツワンピースもどき。
悠さんが入れたんだな、これ。
……あ。
ふと思いついてしまった。
悠さんの昨日の一言。本人も、きっとそんなこと言ったなんて覚えてない。
でも……たぶん悠さんは喜んでくれる。
喜ばせていいのかという問題には目をつぶる。
考え出したらドキドキしてきた。手のひらにうっすら汗もにじむ。
だって俺にとっては結構な冒険だ。
でも悠さんの笑顔も見たい。
よし!やると決めたらやる!
『思い立ったが吉日生活』俺の座右の銘だ。たぶん元ネタは昔の車のCMだったかと思う。
子供の頃にテレビで見て、強烈に脳裏に焼き付いた。
あまりに俺にピッタリな言葉だったからだ。
現に、悠さんに出会って小一時間でマネージャーに転職して、今幸せだ。
さ、始めよう。
昨日は恥ずかしくて、長袖の大きすぎるシャツとしか認識しなかった。
姿見の前で、寝間着を脱いで、シャツを着る。
袖は俺が着ると指先まで隠れるくらい長い。
いわゆる『萌え袖』?だっけ?そういうやつだ。
袖口を折ってまくり上げたくなるけれど、我慢。
首元は、前にボタンが二つ付いていて開閉できるようになっている。
これは……二つとも開けといた方が良いのか?
開いている方が、少し着崩れて寝起き感と色気があるような気がする。
裾は……膝上何センチだ、コレ。
太ももが半分隠れる長さ。それ以上でも以下でもない。
裾からは生足がすっとのびていて、思わず裾を掴んで下に引っ張り、脚を隠したくなる。
隠した状態でふと鏡を見たら、女子高生がいた。
エスカレーターで制服のスカートを押さえる姿、もしくは突風が吹いて慌てて隠す姿。
……さすがに、これは駄目だ。気をつけよう。
最後に仕上げをして、ぽいっと出来上がり。
おとなしくベッドに腰かけて、悠さんを待とう。
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