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第7話 Side:M **

 暗い寝室。何故かふと不安になって、無意識に手を伸ばしてしまうがベッドの隣には誰もいなかった。……そうだった。今日はフィンはいない。外交に行っていて、今日は帰れないと昼に話していたっけか。今日は、どれだけ不安でも誰も頼れない。確か念のために城にアイハを残していくと言っていたけど、正直フィン以外の人間には「不安だから眠れない」とは言えない。アイハたちのことを信頼していないわけじゃないし、むしろアイハとノインは他の兵よりよっぽど信頼できる。だからこそ。みんながまだ隊長の俺の虚像を見ていると分かるから。弱いところは見せたくなかった。自分の手で動かない足を倒して横になり、体を丸める。考えていたってしょうがない。今日はフィンは戻らないのだから。なんとか眠るしかない。嫌な夢を見ないといいけど。  一日寝ているのだから、例え夜といっても眠くなることはない。でもなんとか眠ろうとして、やっと意識を手放した。というのに。それから数時間と経たないうちに、意識はまた戻ってきた。部屋の外から話し声が聞こえて、目を覚ます。部屋がまだ暗いということから、時間はそんなに経っていないとすぐに分かった。内容はわからないが、声は確実にこの部屋の前から聞こえていた。今はこんな状態でも、一度は軍人としてフィンの近衛隊長をしていた身ではある。それなりに気配には敏感だった。ただどうにもフィンの気配にだけは気づけなくて、気づいたらいつもベッドの中にいるのだけど。声がするからといって俺に出来ることはない。見回りの兵が世間話でもしているのだろう。もう一度寝ようと思い目を瞑る。が、直後聞こえた部屋の扉を開ける音に閉じた目をすぐに開く。複数の足音が部屋に入ってきている。 「謁見にしては常識のない時間だな」 「……目的は面会だ」 「俺は希望した覚えはないんだけどなぁ」  その足音が俺に向かっていると気づき、身動きせずに声をあげると足音は一旦その場で止まった。ここはフィンの部屋であるし、目的はフィンだろうかと思って「謁見」という言葉を使ってみたが、「面会」ということは目的は俺らしい。と言われても、俺はこの部屋で生活し始めて以来、誰かに会いたいと言ったことも、誰かに会いたいと言われた覚えもない。わざわざフィンがいない日の、人目につかない深夜を狙う。いい話ではないことは間違いない。と、止まっていた足音がまたこちらに近寄り出した。面会と言われても、俺と話してどうするつもりか全く読めない。自分で体を転がして起き上がろうと両腕に力を籠めようとした時、ベッドが深く沈んでバランスを崩し、肘が折れる。何かと思って顔を上げると、ベッドの上に乗り上げてきた男と目が合った。 「っ! く、何を……!」  素早く回った頭がまずいと伝えてきた。しかし明らかに不利なこの体勢では逃げることなんて到底叶わない。伸びてきた手が手首を掴んだ瞬間声を張り上げようとした唇に、人差し指がかざされる。不意の行動に思わず口を噤んでしまうと、その男は体を倒し、耳元に口を寄せてきた。 「大人しく犯されてくれたら、いいこと教えてやるよ」 「ふざけてんのか?」 「……王子サマが絶対にお前には明かしてやらないだろうこと。もはや城の中にいるのにこのことを知らないのはお前くらいだろうなぁ、……なぁ、知りたいだろ?」  口から出たデマカセだろうと、最初は思った。そんなの俺の首を縦に振らせる口実で、本当はそんな話はないのだろうと思っていた。でも、実際そんな話はいくらでもあるのだろうなと思った。俺は城にいながら、最近の国の状況をほとんど知らなかったから。嘘だと言い切ることが出来なかった。引き換えに提示されたものが下心であることが憎たらしい。減るものではないと言えばそうである。だけど、この体はまだフィンしか知らなかった。それは越えていい壁なのか。否か。 「本当の話、だろうな?」 「嘘をついているように見えんの? 本当さ、しかも国と、お前自身に関わる大事なことだ」  一度気になりだすと、頭はどうしてもそのことを気にしてしまう。俺はもう軍人じゃない。軍人には戻れない。部屋の中で一日中過ごして、時たまフィンと「恋人ごっこ」をするだけ。それなら、別に。フィンにさえバレなければ、いいんじゃないか。つい流されそうになってしまう。ダメだ。もしそんな話があるなら、フィンはきっといつか自分から話してくれる。時が訪れるのを待っているだけ。それなら俺に出来るのは、フィンが話してくれるのを待つだけ。 「悪いが、諦めてもらえるか? この体は俺のじゃないんでな」 「あぁ、そうかい。……じゃあ、勝手に使わせてもらおうか」  それで諦めてくれるとおもっていたのは甘かった。嫌な予感を察知して咄嗟に払い除けようと振るおうとした腕を掴まれる。いつのまにかもう一人の男がベッドのサイドにいて、両手を捕まえるとそれに錠をかけて、ベッドの柵と繋いだ。両腕を引き寄せようと動かしても、鎖が柵にぶつかる金属音しかしない。その隙に布団を剥がされて、ベッドの上の男が完全に馬乗りになってくる。足が動かない俺にとって、抵抗する手段は腕しかないのに。それを拘束されてしまうと、もう体を左右に転がす以外に暴れる手段はない。嫌なことを思い出す。こうやって、抵抗を禁じられたいつかのことが頭を過ぎる。違うと分かっていても、頭に恐怖が生まれていく。  男の手が躊躇なく素肌に触れてくる。フィンじゃない誰かの手。頭の芯が冷たい。暴れたら、酷くされるのでは。そんなことを考えてしまって、何も言われていないのに動くことも出来なかった。それを好機と捉えて体の線をなぞっていく指先の感覚を鮮明に感じ取ってしまう。 「触るな……、嫌だ、やめろッ……」 「なら暴れりゃいいだろ? この足とかさ」  やっと絞り出した言葉を一蹴される。足が動かないことくらいよく知っている癖に。蹴っ飛ばせるものならとっくにそうしている。出来ないと分かっていて、笑いながら足をわざとらしく叩いてくる。こんなときにも暴れられないのが憎たらしい。動けとどれだけ頭が指示を出しても、足は動かないのだから。せめてもの抵抗として、体を撫でる手から逃げるために身を捩るが、ベッドに上ってきたもう一人の男に体を押さえ込まれる。ただでさえほとんど自分で動けないのに。相手が男二人ではほとんどこちらは無力になる。大きいサイズのベッドであることがこんなところで悪い影響をもたらした。男三人乗っても少し軋む程度。これから行う行為にも、耐えきれる大きさ。  体への愛撫もそこそこに、指先が下衣にかかる。動かない下半身の召し物を脱がすのは容易だ。脱がされるのに対して、ただ唇を噛むことしか出来なかった。ひんやりとした空気が下腿に触れる。 「くっ、そ……」  そんなに頻繁に人に見られるような部位ではない。風呂に一緒に入る近衛仲間とフィンの前でしか露出することなんてない。そもそもそんなにまじまじと見られるようなことはない。「見るな」と悪態をついても、言葉に応じた抵抗を出来ないのだからそれは意味はない。 「っ! っ、ぅ……」  熱いものが大腿に触れる。それが男の舌だと考えなくてすぐに分かった。なんでコイツらは俺にこんなことをしたいと思ったのだろう。どういう経緯で抱きたいなどと思ったのだろう。そんなことを思う奴なんてフィンくらいだと思っていた。俺は男であるし、可愛げもない。女の子の代わりになるような部分なんてどこにもない。それなのにどうして。理解できない、したくない。 「ぁ、っ……、く……」  大腿を這っていた舌が、じわじわ上へ上へと進んでいき、自身へと舌先を触れさせだす。声を出すのは屈辱だった。だから声を飲み込み、腕に身を寄せ顔を隠す。しかしすぐに後頭部を捕まれ、顔を無理矢理引き上げられる。逃れようとした唇に何か押し当てられ、驚いて少し口を開いた瞬間それが押し込まれる。その正体がなんなのかすぐに分かったから頭を引いて逃げようとするが、手は髪を鷲掴み逃げないように固定していた。そこに腰を使って口内で動かされる。 「ん、ぐ、ぅ……ん、んッ!」  こちらの口が使われている間に自身の方に手が添えられ、それが上下に動かされる。それまで芯を持っていなかったそこが嫌でも反応していくのが伝わってきた。そうやってある程度の刺激を与えると、ふと手を離され、男が体勢を変える揺れが背中に伝わってきた。開けたくない瞼をうっすら開いて、横目に下肢の方を見てみると思うまま自由に動かせる足を大きく開脚させられるのが見えて顔に熱が溜まっていく。全部見られている感覚。頭を押さえ込まれた状態では羞恥に首を振ることさえままならない。 「ぅ、う、んぐッ! む、ん、んっ……」  それで意識を逸らしたことが気に食わなかったのか、口内に入れられたものが急に突き上げられ、喉の奥が刺激され吐き気が込み上げてくる。それを吐き出すことは当然出来ない。ただつい上げてしまった声で意識が戻ってきたことに気付き、また腰の動きは口内をゆっくり堪能するものに戻る。噛みちぎってやろうかという苛立ちが頭を埋めるが、またやられたら今度こそ吐く。鼻で呼吸するのが嫌で仕方ない。口の中にあるものがどんどん固く形のあるものになっていくことが直接感じ取れて、嫌悪感が頭を埋めていく。

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