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第12話 Side:M **

 目を覚ました場所は固いベッドの上だった。寝てしまったのか気絶したのかよく覚えていない。両手は変わらず指錠で繋がれていて、簡単には外れなさそうだった。他には特に拘束されてはいなかった。しかし俺にとっては手が拘束されていたら全身拘束されているも同然だった。首を動かして左右を見渡してみる。窓のない薄暗い部屋だったが、牢屋というわけではないらしい。ただ狭い部屋の中にベッドだけが置かれている。他には何もない。ドアを隔てた向こう側から人の声がする。  ゆっくりと呼吸を繰り返す。落ち着こうとしているのに、頭に恐怖が生まれてくる。こんな状況では、嫌でも記憶が甦ってくる。以前に拐われた時の記憶。縛り付けられて抵抗も出来ず、ただ拷問された日々のこと。 「んで、コイツはまだ寝てんのか?」 「っ、ひ……」  すると唐突にその扉が開かれる。急に鮮明になる男の声に体が震え、ひきつった声が出る。また同じ目に遭うのだろうか。目が合った男の顔が、笑っている。頭が急激に冷えていく。俺が目を覚ましたことを知った男が部屋に入ってくる。逃げ出したかったが、都合よく体が動くようになったりするはずもない。肩をあげて上半身を転がし反対側を向こうとするが、簡単に肩を掴まれ仰向けに転がされる。手を振り上げて叩きつけようとするが手首を一括りにして顔の横に押さえつけられられ殴ることは叶わない。  それから真上から見下ろされる。ジロジロ見られる視線が気持ち悪くて顔を逸らす。男は国の兵士の格好をしていた。見覚えはないが、兵の一人であることは間違いなかった。やはり俺は罠にかかったのだろう。ソイツはしばらく眺めるだけですぐに手を離し、体を解放した。震えそうになるのを飲み込んで、横目に睨み付けるが嘲笑されるだけだった。 「ほら、お楽しみが起きてるぞ、遊ぶんだろ?」  男は笑いながら部屋から出ていく。それから部屋の外にいるらしい他の人物に声をかけにいった。奴らの最終目的は俺ではなくてフィンのはずだ。何か聞き出そうとするだろうか。残念だが俺は国の仕事については何も知らない。聞かれても言えることなんてほとんどない。怯えた顔をしたら舐められる。つけこまれる。あくまで強気でいなければ。深呼吸して仰向けにされた体を転がし、上半身だけそっぽを向く。それから違う誰かが部屋に入ってくる気配を感じても無視しようとする。 「よぉ、あの情報は役に立ったか?」 「! っ、お前は……」  聞き覚えのある声に体を転がしてしまう。立っていたのは二週間前に俺に情報を吹き込んだ二人の男だった。二人は俺を見て嗤っていた。まんまと罠にかかったことを馬鹿にしているのだろうか。俺がフィンに襲われたことすら話さなかったこともどうせ知っているのだろう。こんな奴らの罠にかかったことが悔しくて、憎しみを込めて睨みつけるが、そんなこと意にも介さず手が伸びてくる。 「お前のこと忘れられなくてな、また相手してくれよ」  真上から覆い被ってきた男は俺を組敷きながら下卑た笑みを浮かべた。それで首を縦に振るとでも思ったのか。ギリと歯を食い縛って腕を曲げて肘を顔面に向ける。肘鉄でも食らわせてやろうとするが、もう一人の方が暴れることを読んでいたのか、手首を持って殴るのを寸前で止めた。 「く、そ……離せッ! っ! っは、ぅ……」  動く上半身の筋力を使って全力で暴れようとした時、首にひんやりとしたものを感じた。それは一本の短刀だった。上の男はそれで首をなぞり、逆手に握ると服を縦に切り裂いていった。それから体を下に動かし、ナイフを足の包帯に当てた。 「痛いのがいいってんなら、その元気な腕をこの足みたいに動かなくしてやるよ? どっちがいい?」  堪えていた恐怖が噴き出してくるようだった。冗談で言っているんじゃない。本当に腕を落とされる。飲み込みきれない恐怖で唇が震える。足の腱を切られた時のことは、いくら忘れようとしても頭にこびりついて消えなかった。刃を突き立てられて引き裂かれている感覚に、ブチブチと切られる感覚に、経験したことのない痛みにどんな叫び声をあげても誰も助けてくれなかった。もうあんなの二度と味わいたくなどない。あんな、死んだ方がマシだと思うような、殺されたいと思うような痛みなんて、もう嫌だった。 「ふ、そうだよな、気持ちいいのがいいよな?」  腕の力は自然と抜けていった。パッと手を離されると、重力に従ってベッドへと落ちていく。抵抗しようなんてもう思わなかった。あんな痛みをまた与えられるくらいなら、好きに足を開かされる方が、まだ痛くない。心の方は潰されそうなほどに痛いけど。 「ッ……ふ、ぁ……」  触れ方に前回のような容赦は一切なかった。あの時はフィンの部屋で、あくまで戻ったフィンにバレないような程度という前提があった。だけどここはそんな心配をする必要がない。だから服も躊躇なく引き裂いたのだろう。枕を腰の下に敷かれ、露出させられた尻の間を手が通っていく。割るように左右に開かれると外気が触れた。今度はそこだけじゃなくて、下半身にたっぷりローションを垂らされて、冷たい感触が伝ってくる。後孔はもちろん、尻や陰部の方にも塗りつけられていく。それが触れた場所が妙に熱くて、それがただの潤滑油ではないと分かるが今さら遅い。両手の前に一人の性器が差し出される。深く息を吐きながら視線をあげると自分でやれと言わんばかりにずいと押し付けてきた。動かない親指以外の手を広げて、両手の平で包みこみ見よう見まねで扱いてみる。口の方をフィンに強要されたことはなかったから、やれと言われてもそれほど分からない。でもやらなかったらまた無理矢理口の中に突っ込まれる。それよりは自分でやった方が苦しくない。もう痛いのも苦しいのもツラいのも嫌だ。  左右四本の指をお互いに絡めて、根本を辺りで動かしながら先端に唇を触れさせる。舌を差し出して小さく舐めながら時おり口に含んでみる。しかし経験のないものはない。どうすれば満足なのかよく分からない。口を動かして、先端以外にも触れさせて舌を這わせたりしてみる。ちゃんと固くなっているということは、これでいいのだろうか。 「は、ぁ……ん、ぁ、ぅん……」  そうやって口に集中している間にも下肢は触られていて、最初から二本の指が後孔を弄っていた。ローションが触れる部分が熱を持っていく。熱くて、早く目の前にあるものが欲しくなっていく。と、慣らすのもそこそこに、舌を這わしていたものが離れていく。それから指が引き抜かれた。もう入れられるのだろうか。その衝撃に耐えるために身を強張らせると、後ろに触れたものはすぐには入れられず、尻の間を前後に移動していく。素股でもしようとしているのかと思ったが、そういうわけではなく、尻に広がったローションを性器につけているらしかった。そうやって性器の方もしっかり濡らしてからやっと後孔に突き立てられる。 「ぅ、う、ぁ……ひ、ぅ……」 「な、あれから王子にも抱かれたんだろ? どっちが良かった?」  後孔を押し広げながら、正面から囁かれる。フィンとの行為を拒絶したら怪しまれる。確かに二週間の中でフィンともまた何度か触れ合った。

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