しかし抱えたままするのは疲れるし、ミューに負担になる体位はしたくない。出来るだけ楽な体位がいい。ふとミューの体をうつ伏せに転がそうとすると、ミューが手を伸ばして制止してきた。 「バックはいや」 「楽だよ？」 「……顔見えるのにしてくれ」 　寝バックだったらミューも余計な力を入れずにすむかと思ったのだけど、そういわれたら別のものにするしかない。うつ伏せにする途中で横に転がしておいて、落ちた足を真っ直ぐにして向かい側に寝転がる。それから正面から身を寄せてミューを抱き締める。その間に上に来ていた足の腿を抱えて膝を曲げ持ち上げる。 「……ミュー」 「……ん、」 　手を離すと足が落ちてしまうので手は離せない。となると肝心の挿入が出来ないから、目の前にきたミューに視線を向けると、ミューは少し視線を伏せて自分の手を背部に回した。ミューの指先が自身に触れるのを感じる。ミューはそのまま先端を自分の後孔に導いて、自分で少しずつ挿れていく。 「ん、んッ……ん、ぁ、あッ！」 　しっかり半ばまで挿ってから腰を動かすと甘く声をあげて手を離した。それから一旦全部押し込んでから、ゆっくり息をするミューに視線を送る。顔が見えるのがいいというからしっかり顔が見える体位にしたのだけど。少し抱き締める力を緩めて、顔が正面に来るようにしてミューと目を合わせる。欲に溶けた目がこちらに向けられ、急かされているような気分になる。 「ふ、かい……」 「そう？」 「んッ、あ……、ふぃ、ん……ふぃん……ぁッ、あっ！」 　こちらはよく分からないが、いつもより深く奥まで届いているらしい。対面側位は少し動きづらいのが難点だが、その分密着度が高かった。ミューの熱が直接肌に伝わってくる。腰を動かすと敏感に反応する顔が間近に見える。するとミューは自分から顔を寄せて口を開いて、少しだけ舌を差し出した。キスをおねだりしていることは一目で分かる。それに誘われるようにまた身を寄せて、開いた口内に舌を差し込む。その間も後孔を突き上げる動きは続けていると、口の端から吐息が落ちていった。時折跳ねるようにくぐもった声を出すのがしっかりと耳に聞こえてくる。 「ん、ふ……、ッん、ん……ぅんッ！」 　こうしていると、抱いているというより愛し合っているという言葉の方が合う。ずっとこんなセックスをしたかった。一方的な行為じゃなくて、お互いが求めあうもの。空いた片手をミューの首の下から差し入れると、ミューは少し頭をあげてそれを招いてくれた。それに従って後頭部に手を回してさらに口づけを深くする。歯列をなぞって、舌を絡めて、口内を隅々堪能していく。ミューも両手を伸ばして抱きついてくれるのが手のひらの温もりから分かる。ずっとこうしていたくなる。しかしミューがふと、唇を離してしまって、唾液が落ちていく。 「あぁぁッ！　あ、ぁッ、ァ、ひ、く……またイく、ぅ、あ、あ゛あッ！」 　それで昂っていたのか、無意識に律動を早めていたらしい。ミューは飲み込みきれなかった唾液を溢しながら、目をキュッと瞑る。すると涙が目尻を落ちていった。頭を丸めて僕の胸元に預けてくる。それを抱き留めて、絶頂を与えるために腰に力を籠める。深いところを突いているから前立腺が刺激されるのだろう。ミューが抱き締める力が強くなる。それに合わせて、求める場所を深く貫いた。 「──っっ！　あ゛あァッ！」 　強い快楽が頭を襲ったのか、背中が後ろに反って、後頭部に置いていた手に重みがかかった。それを追うように体を抱いて、力の入る後孔を突き上げる。 「ぁッ、あ、あぅっ、アッ！　はや、く、ぅ、あ、あッ！」 　もうちょっと。イったばかりで続けられるのは苦しいと分かっている。でももう少しでイけるから。ねだるように締め付けてくる後孔が堪らない。それからミューを追うように、奥に吐き出した後もしばらく抜くことは出来なかった。 　深い呼吸を繰り返しているミューがそっと目を開けて、僕に目を向けた。その瞳は少しスッとしていて、嫌な記憶を少しでも塗り替えられたのかなと思う。 「話したいことが、あるんだ」 「……うん」 　先ほど止められてしまったけど、ここで話さなかったらまた夜が明けたら同じ日々の繰り返しになってしまう。後頭部に回していた手を抜いて、涙で濡れた頬に手を添える。 「……言い訳に聞こえちゃうかもしれないけどね。僕は、ただ君がまた傷つくのが怖くて、守りたくて、だからここに閉じ込めたんだ。もう、君に、死にたいなんて思って欲しくなかった。……ミュー、話したくないなら、言わなくてもいい。どうして、城を抜け出したりしたの？」 　ミューの視線が伏せられる。ミューが抱えもった感情を聞かせて欲しかった。この部屋にいる間、ミューは多くの感情を飲み込んできた。言い返したいことも、僕とは異なった思いを持っていることも隠して。違う気持ちがあっていい。僕とミューは違う。ミューにもミューなりに考えていることがたくさんある。これまで城にいるときもきっと言いたいことがたくさんあった。僕はそれを聞きたくなくて、聞くのが怖くて逃げた。そのせいで擦れ違うのは、もう御免だから。