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第78話

悔しくて情けなくて缶を握りしめた。 その時だった 「だいじょうぶ?」 聞き間違いようもない声に驚き振り返る。けれど思っていた人でないことはわかってる…けど… 「琉?」 そう言いたくなるほどその人は俺の初恋の人によく似ていた 「…理苑…だね。話しは聞いてるよ」 「もしかして(そら)?」 「琉から聞いてた?そう。俺は天。琉の双子の兄だよ」 「どうして…」 「今日はね母親の定期検査で来てるんだ」 「母親?」 琉が本当の両親と再会できたのは知ってた。ずっと入院していて琉のことを迎えにこれなかったのだということも。 琉は俺と違い、ちゃんと愛されていたのだと。 年を取るにつれてさざなみに来る子達は俺みたいに捨てられた子供だけでなく止む終えない事情でやってくる子がいるということもわかっていた。 だからこそ俺の心無いあの言葉で琉の声を奪ってしまったという大きな罪にも気付いてしまってからは申し訳なさと恋しさの狭間で何度も胸を痛めていた。そんなの俺の勝手だけど。 今は声も戻り幸せを掴んだ琉。その琉が何度も聞かせてくれた。自分には天という双子の兄がいると。いつか会わせたいと。 その彼が今目の前にいる。琉によく似た綺麗な顔。優しさがにじみ出てる表情。そして柔らかい声。少しだけ体は琉よりはしっかりしてそうだけど瓜二つだ 「…っ…」 「理苑…って呼んでもいい?」 「ん…」 「理苑…琉のこと思い出した?」 「ん…」 「さっきね、さざなみの人に会ったんだ。俺ね琉がさざなみを出てから何度か足を運んでいたんだ。琉を育ててくれたみんなに会いたくてさ。うちのお母さんの体のこともあったから最近家族でこっちに引っ越してきたんだよ。こっちの方が医療が充実してるしね」 「そうだったのか」 「うん。さざなみのお母さんのこと…体調のこと俺知ってた。だから運ばれたって知ってびっくりして…」 「お母さんは…もう長くないの?」 そんなのたった今出会ったばかりの天に聞くことでないとわかってたけどだからこそ今心を覆い尽くすモヤモヤを聞きたかった 「…人は必ず最期がくるよ。けどお母さんは今ではない。そうだなぁ。 理苑がもっと立派になるまでは頑張ってくれるはずだよ。だから今は苦しければ泣いていいよ。ヒーローは泣いちゃだめっていう決まりはないんだ。でも理苑はみんなのヒーローだからみんなの前では泣けないでしょ?だから俺が胸を貸してあげる。おいで」 そういうと腕を広げ俺を抱きしめてくれ背中を擦ってくれた。あのときのソラに何だか似てた。 「っ…俺…」 「うん。大丈夫。大丈夫だよ」 天の匂いがとても心地よい。心音がとても心地よい… 「怖い…怖い…」 「うん。怖いね…」 「お母さんがいなくなったら…俺…」

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