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「待て」
「ん?」
「その女性を俺に預けてくれ。お前は穴に入った方が良い」
「あ・・」
「その方が寝かしやすいだろ?」
「確かに」
そう話して遠雷はまず先に女を昂遠に預けると、先に穴へと入った。
「いいか。渡すぞ」
「ああ。肘と膝が折れてるから気をつけて」
そうして、女を穴に寝かせて数分が経過した。
まだ他にもいるかもしれないと話す昂遠に従って遠雷も周囲に気を配りながら歩いて行く。
吹き抜ける風は何処か生温く水分を含んでいる。
二名の影だけが寂しく伸びた。
「ここまで運んで、肝心のお前の友の姿は無し、か」
「ああ・・・それにしても・・この亡骸は一体誰なんだろう?」
「ふむ・・・薬を買いに来た客・・・にしては軽装すぎるな。他に家があるのか・・?いや?この先の道に家なんてあったか・・」
「・・・・・・・・・・」
一瞬、遠雷の脳裏に『村が襲撃されたのでは?』という考えが頭を過った。
もし村が襲撃を受けたのであれば、家族の他に息絶えた民がいるというのも頷ける。だが、先程の話ではないが、もし本当にそのようなことが起これば、すぐに噂になったはずだ。
けれど通り過ぎた市場の様子は変わらなかったし、馬を預けた宿でもそんな話は耳に入ってこなかった。
『もしや、秘密裏に襲撃された?』
そんな事を考えながら足を進めて暫く、眼前に何かを見つけた遠雷は袖を伸ばし昂遠の動きを止めた。
「?」
「ちょっと見てくる」
「ああ。気をつけて」
少し離れた距離を歩く遠雷の背を黙って眺める。
遠雷は重なるように息絶えた小さな背を見つけると『嗚呼』と深いため息を吐きながら戻って来た。首を振りながら歩く彼の表情は沈み、哀しさが滲み出ている。
昂遠は嫌な予感を感じながらも問いかけずにはいられなかった。
「どうした?」
「・・・・二人の子どもが、見つかったよ」
「・・・・・・は・・・・」
遠雷の声に、顔を上げた昂遠の表情が苦痛に歪み、急に力が抜けたように膝から崩れ落ちた。「嗚呼・・」と呟いた声は枯れていて上手く聞き取ることが出来ない。
今まで数多くの亡骸を見てきたが、幼い子どもの姿ほど胸を突くものは無い。遠雷の眉間の皺が痛みを殺すように歪んでいる。
「連れて行ってくれ」
「昂・・」
「頼む・・」
「ああ・・」
眼下に眠る亡骸は小さく、足を見れば片方しか靴を履いていない。
腰を降ろして子の頭を優しく撫でていると何とも言えない感情が湧きあがってきた。
身長からしてそんなに大きくはない。歳は恐らく十から十五といった所だろう。
子ども達の表情は恐怖で凍り付き、この世のものとは思えない形相で息絶えている。
凶漢を前にして互いに庇い合いながら逝ったのだと思うと、昂遠の胸の奥が悲しみで一杯になっていった。
じわりと胸に熱いものがこみ上げてくる。息を止め、何とか抑えようとしても胸を突くこの痛みは止められそうもない。
「・・・痛かったな・・」
遠雷は子どもたちの瞼にそっと触れると、優しく撫でるように彼らの目を閉じた。
「・・・あと一人も、何処かに居るのだろうな」
そう呟く遠雷の表情は硬い。彼は呼吸を整えると、重い腰を持ち上げて昂遠が居た場所に視線を向けた。
昂遠は未だ憔悴したまま立ち上がれないでいる為、自分しか探せる者はいないのだからと、遠雷が気合を入れる為に腕を何度も動かしている。
昼間だというのに人の声はおろか、鳥や虫の姿も見えないこの光景は不気味でしかなく、そんな場所に立っている現実にブルっと背筋を震わせると、本日何度目かの重い息を吐いた。
『早く見つけてやらなくては・・せめて一緒に埋めてやろう・・』
「・・・・・・ん?」
その時、五歩進んだ場所の土が不自然に盛り上がっている事に気付いた遠雷の足がふと止まった。
恐る恐る近づいてみれば、慌てて土を掘って埋めたような跡が残されているではないか。
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