27 / 43

26

「・・・・・・・・・飲め。こんな時は酒が効く」 「・・・今は」 とてもじゃないが、飲む気になれないと言いかけた昂遠の口に、遠雷の人差し指がコツンと触れた。その指に視線を向けながら遠雷を盗み見れば、彼は赤い瞳を揺らしながら昂遠を見つめている。 「・・丁度、この小屋には食料も十分ある。俺たちが数日滞在しても余裕がある量だ。水もある。本当は、腹を満たして明日帰ろうと思ってた」 「・・・・・」 「・・だが、気が変わった。確かめたいことがある」 「・・・確かめ・・・る?」 ぼんやりと呟いた昂遠の声に、遠雷は深く頷いた。 「・・・でもその前に、まずは座って飲もう。飲みながら、包みについて説明してやる」 ぐすっと鼻をすすりながら何度も喉を鳴らす昂遠に向かって、遠雷は水の入った桶と椀を見せた。 「・・・ぞういえば・・づづみ・・」 「ああ。だが、酒の前にまずは水だ。お前は水を飲め」 「・・・・・・うん」 こうなってしまっては立場が逆である。張っていたはずの気が緩み、抜けてしまったのだろう。肩を小さく震わせながら水を待つその姿は、何処から見ても叱られた子どものようだ。 「・・・・・茶器を探したが見つからなかった。この椀で飲んでくれ」 「・・・うん」 「・・・・・・・」 遠雷が注いだ水を、昂遠が無理やり喉に流し込むように飲み干している。 それを黙って眺めながら、遠雷は昂遠に酒を注ぎ、自分の椀にも同じように酒を注いだ。 注いだ酒に映り込んだロウソクの火がぼんやりと揺らいでいる。 「・・・・・それにしても・・・」 「?」 「・・包みもそうだが、あの刺し傷・・」 唇に指を付けたまま遠雷が呟く。その視線は椀ではなく右下を向いたままだ。 「?」 「気が付かなかったか?」 「・・・?」 「抜く前にもう一度剣で突いている。最初は偶然かと思い、他の亡骸にも触ってみたがどれもこれも大体同じだった」 「・・二度突き?」 昂遠が眉間に皺を寄せたまま、ゆっくりと顔を上げた。 遠雷は自身の指を人間と剣に見立て、身振り手振りを加えながら話し始めた。 「ああ。二度突く攻撃と言えば、この国では梳家の者がよく使う技だ」 「・・()家・・(さい)家の子飼いだな」 「ああ。だが、恐らく彼らじゃないだろう」 「何故そう言える?」 「似せようとしたんだろうが、奴らの剣は抜く前に再度突いている。だから傷にブレが無い」 「・・・・なるほどな」 「最初、傷の微妙な広がり具合を見て()家の者がやったんだと思った。だが、何度も触れているうちに、抜いた後にもう一度突いている事に気付いたんだ。もう一度突くとなると傷が二ヶ所に増えるだろ?()家の剣であれば、わざわざそんな面倒なことはしないはずだ」 「・・・・・・・」 「それに、彼らはもともと暗殺を生業としている一族のはずだろ?その証拠に彩家の当主の命でしか彼らは動かない」 「ああ。確かに。あれは肝が冷える」 遠雷の説明に、昂遠も頷きながら手にしていた椀を卓に置いた。 「暗殺を生業(なりわい)としているのに、どうにも派手すぎる。それにな・・」 遠雷の声が若干低くなった。 「彼らは暗殺を目的としている。だからじゃないが、彼らの動きは風のように俊敏(しゅんびん)で去るのも早い。足跡さえも残さないことを第一に考えるような奴らが、あんな風に女性を辱めて捨て置くと思うか?」 「・・・・・」 「何のために?」 「・・・・・ううむ・・」 遠雷の声に昂遠は重い息を吐くと口元に指を置いたまま、とうとう何も言わなくなってしまった。遠雷は懐や袖から、じゃらりと銭を取り出すとゆっくりと卓に乗せた。

ともだちにシェアしよう!