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いじっぱりにキス 第3話(佐々木)
「なぁ、雪ちゃん、寝ちゃってるぞ」
隣で大人しく飲んでいた相川が、佐々木の背中をツンツンと突いてきた。
「え?あぁ、静かになったと思ったら寝たのか……まぁ、泣き止んだしこのまま寝かせとくか」
「だね、よいしょっと」
相川が、そっと佐々木の胸から雪夜を引きはがして、ベッドに寝かせた。
「悪い、助かった」
佐々木でも雪夜くらいなら抱き上げることはできるが、相川や夏樹のように軽々とは無理だ。
「これくらいお安い御用です。翠 もお疲れさん。まぁ飲めよ。お前まだほとんど飲んでないだろ?雪ちゃんも落ち着いたし、もう飲んでも大丈夫だろ」
相川が佐々木にビールを渡して来た。
「え?いや、俺も3本くらいは飲んだけど……」
一応、雪夜が不安定になった時に対処できるよう、あまり酔わないように気を付けて、控えめにはしていたが……
相川は雪夜にばかり構っている様子だったのに、何気に佐々木のことも見ていたらしい。
あれ?というか……今こいつ“翠”って……
「翠さ~ん?チューハイ2本は飲んだうちに入らないですよ?」
「お前と一緒にすんな!そういうお前は……ビール何本空けたんだよ!?」
プシュッとビール缶を開けて飲みながら、机の上に転がる空き缶を見て思わず顔を顰める。
雪夜ほどではないが、佐々木もそんなに酒に強い方ではない。
チューハイくらいがちょうどいいのだ。
対して、相川は結構飲む。
ビールから日本酒、焼酎、洋酒……なんでも飲める。
「え~?ビールはまだ6本。今はウイスキーと焼酎飲んでる」
「お前……飲みすぎじゃね……?」
嫌な予感がして、思わず後ずさりをする。
「まだ酔ってないから大丈夫~。ちゃんと勃つよ?」
相川が、ニヤッと笑って自分の股間を撫でた。
「ばっ……何考えてんだよっ!!」
やっぱりっ!こいつが俺を名前で呼ぶ時は……
雪夜と話していた時は、酔っぱらった雪夜のテンションに合わせていただけでまだそんなに酔ってはいなかったが……今は、その時よりもだいぶ酔いが回っているらしい。
少し赤くなった頬と、潤んだ瞳がやけにエロい。
「雪ちゃん今寝たとこだし、しばらく起きないだろ。……なぁ、隣に人がいる状況って興奮しない?」
相川が舌なめずりをしながら、佐々木に近づいてきた。
「え……ちょっ……冗談やめっ……んっ」
相川の勢いに押されて、若干後ろに倒れ気味になっていた佐々木は、そのまま押し倒されて相川の手で口を塞がれた。
「シーっ!静かにしてないと、雪ちゃん起きちゃうだろ?」
こいつっ……何するつもり……
「心配しなくても、挿 れはしないから」
当たり前だっ!!!
かなり酔ってんなこいつっ!!!
相川を押し返そうとする手もあっという間に押さえつけられる。
あ~もぅっ!バカ力 !!
「あ~き~ら?力抜けって」
「やっ……ん゛っ……んん~~っ!!」
口を塞いでいた手が外れたと思ったら、代わりに相川の口で塞がれた。
くっそっ……こいつキスやたら上手いから……力が……抜け……
相川は以前から酔うとキスをしてくることがあったのだが、それが最近特に多い……
そういえば……しょっちゅうしてくるようになったのは……俺を襲ったあの日からか……?
***
――数週間前、うちで酒を飲んでいた相川は、いつものように酔いつぶれた。
外で飲むときは割と強いくせに、佐々木の家で宅飲みするときは、ペース配分がめちゃくちゃになってしょっちゅう酔いつぶれる。
そして、そのまま朝まで起きない。
それはいつもの光景だった。
ただ一つ違ったのは、その時は少し佐々木も飲み過ぎていたということ。
その頃から、雪夜が大学の緑川先生の部屋を片付けるバイトを始めた。
珍しく飲み過ぎたのは、雪夜に付きっきりになることが減って、少し淋しさを感じていたのかもしれない。
佐々木は、酔いつぶれて気持ち良さげに眠る相川の髪をそっと撫でた。
こそばゆいのか、少し顔を顰めた相川の様子にフッと笑う。
その指で、顔の輪郭をなぞって、少し開いている口唇に触れた。
ただ、何となくだ。何となく触りたくなっただけ。
酔いつぶれてるし……どうせ起きないし……
「なぁ相川……俺はあの日からずっとお前のことが好きなんだよ……」
ずっと心にある言葉をそっと呟いて、相川の口唇にそっと口唇を重ねた。
軽く触れるだけのキスをして離れようとしたのだが、その瞬間、相川の手が伸びてきた。
「なに?もう終わり?」
「えっ!?ちょっ……んっ!」
相川に後頭部を押さえられて、そのまま口唇を奪われた。
「ちょっ、待てっ、相川っ……やめっ……!」
酔っぱらって女の子と勘違いしてるのだろうと思い、必死で起き上がろうとしたのだが、がっちりとホールドされて身動きが取れなかった。
力では相川に敵わない。
その上、佐々木も酔っていたので余計に力が入らなかった。
焦って顔が熱くなる。パニクったせいで一気に酔いが回った気がした。
どうしようもない状態で、ふと、抱かれてもいいんじゃないかと思った。
佐々木は子どもの頃から相川のことがずっと好きだった。
自分は男が好きなのかと思ったが、別に他の男を見ても何とも思わない。
告白されたので、何となく女の子とも付き合ってみたけれど、セックスはできても、そんなに興奮する程でも溺れる程でもないし、その子たちを特別好きになることもなかった。
だからと言って、相川とシたいのかと言われたら、そういう感情とはなんだか違うものだった。
好きだけど、セックスがしたいわけじゃない。
それよりもどんな形でもいいから、一生傍にいたいと思う。
そのためには、親友というポジションが一番いい。
だから、相川に感じている好きは友情の好きなんだろうと思い込もうとしていた。
それなのに……魔がさした。
ただの友情のはずなのに、これ以上したら友情じゃなくなってしまう……
でも、相川は酔ってるし、ヤる気満々だし……
それに、相川に触られるのが嫌なわけでもない。
佐々木は酔っ払った思考でわけがわからなくなっている間に、相川の無駄にうまいキスに蕩けさせられて、気がついたら抱かれていた。
そして次の日、相川は佐々木を抱いたことなどきれいさっぱり忘れていた――……
***
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