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いじっぱりにキス 第4話(佐々木)

「ん~?あいかわぁ~?」  相川のキスに流されかけた時、雪夜の声がして、はっと我に返った。 「退()、けっ!!」  キスを止めて顔を上げた相川を思いきり腕で押し上げる。  少し隙間ができたので、覆いかぶさっていた相川の腹に膝で蹴りを入れた。 「うぐっ……ちょっ……おまっ……~~~~~っっっ!!!」 「……二人共なにしてんのぉ?」  ベッドの上で目をこすりながら雪夜が二人を見ている。 「あ~、いや~何も?ほら、いつもの!!相川が酔っぱらって絡んできただけだ。気にすんな!!!」  佐々木の上で腹を押さえて悶えている相川を突き飛ばして離れる。 「……ちゅーしてたの?」  見てたのかよそこっ!!!  まずい……ごまかしがきかないっ…… 「あ~……まぁ……」  頭痛を感じてこめかみを押さえる。  いや、こいつが酔ってキスするのは雪夜も知ってるんだし……ごまかさなくてもいいか? 「え~ずるいぃ~俺もするぅ~!!」  はっ!?おいおい、もしかして雪夜まだ酔っぱらってる!? 「え、雪ちゃんもしたい?じゃあ俺とちゅーしよっか」  結構な勢いで蹴り上げたはずだが、もう復活した相川がちゃっかりと話にノッて雪夜に近づこうとした。 「あほかぁああああああ!!!それはさすがに夏樹さんにピーされるからっ!!!」  いくら酔っぱらってるからって、それはダメだっ!  すかさず相川の襟首を捕まえ締め上げる。 「ぐぇっ!!……いいじゃんか、ちゅーくらい!それとも、俺が他のやつとするのがそんなに嫌?」  雪夜にキスをしたことが夏樹さんにバレたらいろいろと面倒なので止めたのだが、相川はそれを別の意味に取ったらしい。 「はぁ!?そういう問題じゃ……」 「そういう問題だろ?ほら、言ってみ?」  相川がニヤニヤしながら佐々木を覗き込む。 「~~~~~~っ!!!!言わねぇよっ!!!お前が他のやつとするのなんて今に始まったことじゃねぇだろっ!!」  今まで、お互いに彼女がいたことだってあるし、相川が彼女とキスをしているところだって何回も見たことがある。  だいたい、なんで俺がそんなことを気にしなきゃいけないんだ……?  だって、俺たちは別に……  こいつのからかいには慣れてるのに……こんな言葉に胸が痛くなるなんて、俺もちょっと酔っぱらってるのかもしれない…… 「……え、うそっ!翠ごめん!!俺が悪かったってば、泣くなよぉ~」  佐々木の目から溢れてきた涙に、相川が若干焦って手を伸ばしてきた。  佐々木はその手を振り払って、雪夜に抱きついた。 「雪夜ぁ~~~!!!もうあのバカやだぁ~~~!!」 「あ~相川が佐々木泣かせたぁ~!わ~るいんだぁ~!」  さっきとは逆で、今度は雪夜が佐々木をよしよしと撫でる。 「いや、あの……泣かせるつもりじゃ……あ~きらく~ん?ほんとにごめんって!!」  雪夜に非難されて、相川がうろたえる。  相川は雪夜の言葉には弱い。 「うるせぇっ!!もうお前帰れっっ!!」 ***  相川が雪夜に対して友達以上の恋愛感情に近い親愛の情を持っているのは知っている。  相川に雪夜を紹介されたのは、大学に入ってしばらくしてからだ。  雪夜は「容姿は良いがすぐに防犯ブザーを鳴らすヤバい奴」という噂があり一部では有名だったので、俺も遠目に見たことはあった。  ずっと親友として隣にいた俺には、相川が雪夜と話しているのを見た時、ただの男友達以上の感情を抱いているのは手に取るようにわかった。  ただ、相川はゲイではないし、ちょっと抜けているので自分のそんな気持ちもよくわかってはいなかったのだろうと思う。    最初は相川の心を掴んだ雪夜に対して、少し嫉妬した。小柄で人形みたいに可愛らしい顔。性別と胸以外は相川の好みドンピシャだ。俺には……ないものだ……  鈍い相川が、同性の雪夜とそういう関係になることはないだろうとわかっていたけれど、それでも雪夜が羨ましいと思った。仲良くするのは、正直少しキツイなと思った。  でも、相川と一緒に雪夜に接するうちに、何となくピンとくるものがあった。  頑なに他人を避けようとする雪夜。  自分を押し殺して、他人にバレないように、孤立して一人でいようとする姿が、なんだか痛々しくて、少しだけ、昔の自分を見ているような気がした。    それに、実際に話してみると、雪夜は想像とは全然違った。  防犯ブザーの噂の理由も、ちゃんと聞いてみればただの自己防衛だ。噂になるほど鳴らしたということは、それだけ危ない目にあったということでもある。  素直かと思えば頑固だし、頭はいいのに人付き合いが下手で世間知らずだし、不愛想だけれど律儀だし、可愛い顔をしているのに泣きそうな顔で笑う……相川のことは抜きにして、気になる存在というか、ただ純粋に、友達になってもっとこいつのことを知りたいと思った。  まぁ、世話焼きの俺としては放っておけない存在だし、何だかんだ言っても、俺が自分から友達になりたいと思ったのは、相川と雪夜だけだ。  そんなある日、それまで不愛想だったのに、急に雪夜が可愛らしくなった。  見た目が変わったのではなく、雰囲気が変わったのだ。  常に張りつめていた空気が、少し柔らかくなって、俺や相川以外のやつらとも、あまり構えずに話せるようになった。  雪夜が恋をしているのは一目瞭然だった。  きっと、その頃夏樹さんに出会ったのだろうと思う。  よく笑うようになった雪夜に相川がときめきまくっているのは感じたが、雪夜の好きな相手が相川でないことも一目瞭然だった。    夏樹さんと同棲を始めたことで、雪夜がゲイだということはさすがの相川も理解したようだが、雪夜に対する態度は以前と変わらない。  相川にとって、雪夜は変わらず友達以上の気になる存在なのだろう。  俺にとっては少し複雑だ。  雪夜といる時の嬉しそうな相川の顔を見ていると、応援してやりたくもなる。  だが、雪夜と夏樹さんのことも応援してやりたい。  というか、あの二人には、相川の入り込む隙などないのだ――…… ***

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