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いじっぱりにキス 第10話(佐々木)

 ――相川が佐々木を見る時ね、夏樹さんが俺を見る時と同じ目してるよ……  帰り際に雪夜が言っていた言葉が頭をよぎる。  こいつが……?そんなこと……あるわけないだろ……?  だって、夏樹さんが雪夜を見る時の目は、めちゃくちゃ甘ったるくて愛おしいものを見る目で……   「(あきら)、眉間の皺すごいぞ?」  俺を見下ろしているこのバカは、昔から知っているマヌケなお調子者の顔で……遠慮もなく俺の眉間を撫でた。  うん、ねぇな。  こいつが、あの夏樹さんと同じような目で見て来るとか……天地がひっくり返るくらいあり得ねぇわ。 「誰のせいだと思って……んっ……」  相川が、文句を言おうとする佐々木に軽く口唇を重ねて来た。  話の途中なのにキスしてくんなよっ!!! 「え、俺のせいなの?なんで?」  そして普通に話を続けるなっ!! 「なんでって……はぁ~……」  これからセックスをしようとしているにしては、デリカシーもムードもない。  佐々木は、若干ドキドキしていた自分がバカらしくなって、ため息を吐いた。  そりゃ、女じゃないんだから、そんなムードを作る必要なんてないって言われりゃ、その通りだけど…… 「もう俺自分が嫌だ……なんでこんな奴を好きになったんだろ……」  思わず心の声が出た。 「そりゃ~、俺ってばカッコいいからじゃない?」  相川が顔を近づけたまま話かけてくる。 「そうだな、お前、見た目はいいからな……」  くやしいけれど、相川は見た目は悪くない……というか、カッコいい方だと思う。  俺も相川の顔は好きだ…… 「ちょっと~!見た目だけ?もっとさぁ、ほら、中身がカッコいいってことはないわけ?」 「中身ぃ~?」 「だいたい、お前俺のどこが好きになったわけ?」 「は?」 「先に好きだっつったのはお前の方だろ?翠は俺のどこを好きになったのか聞いてなかったな~と思って」 「……お前のその無駄に記憶力のいいところが嫌いだ……」  なんで酒の勢いでそのまま忘れてくれなかったんだ……  相川は昔から記憶力がいい。  自分の興味のあることに関してだけ。  興味がないことには記憶力を発揮しないので、残念な能力だ。  お前を好きな理由なんて……そんなの……  顔を背けたかったが、相川が額を合わせてきているので身動きが取れない。  っていうか、なんでこんなに顔近づけたまま話してんだ?  キスするならさっさとしてこいよっ!!! 「はいはい、それで?」  佐々木を見る相川の目が、明らかに面白がっている。 「……知らない……お前なんか嫌いだっ!」  ……こんなことならあの時好きだなんて言わなきゃよかった――…… ***

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