21 / 30

キスはしてもいいですか!? 第4話(相川)

 (あきら)と俺は小学校からの付き合いだ。  とは言え、最初から友達だったわけじゃない。  翠の最初の印象は、ロボット。  整った顔立ちで、いつもニコニコして、品行方正で、大人にも友達にもウケのいい優等生。  まるでそうプログラムされているかのように、絵に描いたような完璧な良い子ちゃん。  でも、誰もいないところでふと見せる空っぽのような表情がやけに気になるやつだった。  禁止されたことをやりたがるお年頃だった俺は、ある日、子どもだけで登るなと言われていた裏山に登ってみた。  軽く冒険にでも行く気分で登った先で耳にしたのは、今まで聞いたことのないような悲哀と怒りに満ちた翠の怒鳴り声だった。  初めて見る翠の意外な姿にさすがに面食らったものの、なんだかほっとしている自分もいた。  なんだ、こいつもやっぱり俺らと一緒なんだ。  キレイな顔を歪めて感情を露わにした翠は、とても人間らしかった。  なんで普段からこういう顔しないんだろ。  さっきの悲鳴みたいな怒鳴り声が耳から離れない。  あんな声を出す程不満がたまってるのに、良い子ちゃんでいようとするのは何でだ?  何だか、生きづらそうなやつだな……  俺は何となく、普段の嘘くさい翠じゃなくて、こっちの翠と友達になりたいと思った。  俺はバカだけど、翠が好きであんな良い子ちゃんをしてるわけじゃないっていうことはわかる。  だから、俺たちは友達になった。 ***  誰とでも仲良くなれるように見えて、俺は結構相手を選ぶ。  人の悪口や文句ばかり言うやつは苦手だし、下ネタしか言わないやつとか乱暴なやつも苦手だ。  そういうやつらとは、上辺だけの付き合いをして、適当に距離を置いている。    友達とは『広く、浅く』付き合う。  そういう点では、翠と俺はよく似ているのかもしれない。  素の翠はめちゃくちゃ口が悪くて、すぐに叩いたり蹴ったりするし、わりとイイ性格をしている。  だから、普通なら、そんな奴とは距離を置くのだが、翠だけは別だ。  だって、翠がそんな自分を出すのは俺にだけだから。  翠の口の悪さは照れ隠し。  顔が赤くなっているのを誤魔化すために、きれいな顔をわざと顰める。  気持ち良い程にスパッと罵って来るくせに、言った後には言い過ぎたかもってしょんぼりして俺の顔をチラチラ窺ってくる。  俺が笑うと安心したように「ばぁ~か」と眉を下げて笑う……  素の翠は可愛い。それは俺しか知らないこと。知らなくていいこと。  思春期になって、それぞれに彼女ができても、翠は特別だった。  女の子は可愛いし好きだ。女の子は弱くて脆い。自分の彼女のことは守ってあげなきゃと思う。  だけど、彼女に向けられている翠の笑顔がいつもの嘘くさい笑顔であるのを見た時に優越感を感じている自分がいた。  翠は自分の彼女にも素を出してない。  翠が素を出せるのは俺といる時だけ。  それが嬉しかった。 ***   「へ~……なんだお前もわりと昔からあいつのこと好きだったんだ?」  夏樹が意外そうな顔で相川を見た。 「だから好きだったんだってば!恋愛とは結び付かなかったけど……他のやつと翠が仲良くしてたら、なんかイラッとするっていうか、淋しいっていうか……」 「じゃあ、なんで雪夜と仲良くなったんだ?」 「雪ちゃんは……」  大学に入ってしばらくして雪ちゃんに出会った。  初めて見た時、どことなく雰囲気が昔の翠に似ていると思って、放っておけなかった。 「似てる?雪夜と佐々木が?」 「あ~、孤立してるところがね。子どもの頃の翠も出会った頃の雪ちゃんも他人に壁作ってたから。翠は上手く隠してたから、あの頃それに気づいてたのは俺くらいだっただろうけど」 「なるほど。それで似てる……か」  翠に引き合わせると、翠もすぐに雪ちゃんと仲良くなった。  今まで翠が俺以外のやつに素を見せるのは嫌だったのに、雪ちゃんには別に嫌だと思わなかったのは、たぶん、翠が雪ちゃんに構う理由が俺と同じだってわかってたから。 「それにしても、お前雪夜にはかなり絡んでたよな?佐々木のことが好きなのになんで雪夜にベタベタしてたんだよ。俺は最初お前は雪夜のことが好きなんだと思ってたぞ?」 「え~?いや、雪ちゃんのことも翠の次に好きだよ?雪ちゃん可愛いし~なんか弟みたいな感じだし~。その可愛い弟がこんなと付き合ってるとか、兄としては心配だろ?」 「ほ~?そのに恋愛相談してんのは誰だよ」 「俺です」 「だよな?さて、そんじゃ、おっさんはもう帰るぞ!」  夏樹がにっこり笑って、立ち上がった。 「あ~待って!まだ終わってないぃ~!」 「なんだよっ!!まだあるのかよっ!?」 「すみません、ごめんなさいぃっ!だって、何も解決してないじゃんかぁあああ!!」 「おっさんはお前の昔語りを聞くのに疲れたんだが?」 「俺話をまとめるの苦手なんだよ……」 「そうみたいだな」  はぁ……と大袈裟にため息を吐きながら、夏樹がもう一度座った。 「それで?」 「え~と――……」 ***

ともだちにシェアしよう!