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キスはしてもいいですか!? 第11話(相川)
しばらく考え込んでいた夏樹が、相川に目線を移した。
「ん?」
キョトンと見返す相川を見て、夏樹がため息を吐いた。
「それくらい自分で考えろって言いたいけど、それだとまたお前に呼び出されそうだしなぁ~……」
「か、考えたけどわかんないんだもん!!」
「あ~はいはい、そうだな。だから……単に照れてるだけだろ」
「俺は別に照れてねぇよ!?」
「お前じゃねぇよっ!!佐々木の話!」
「翠 ?」
「してもいいって言ったものの、いざお前に抱かれるとなると恥ずかしいからダメって言っちゃう……みたいな?」
「なにそれ?」
だって、翠も俺のこと好きなのに?なんで今更恥ずかしいの?
「よく考えてみろよ。あの佐々木だぞ?簡単にデレるわけねぇだろ?」
「デレ……確かに……っ!」
「っつーわけで、お前はもうちょっとムードってもんを作れ。どうせお前のことだから、やる時もこのままのノリだろ?」
「ムードって言われても……どうやって作るの?」
そういえば、付き合った女の子たちにはよく「ムードがない!」と怒られた。
ムードって簡単に言うけどさぁ……作れるもんなの?
「どうやって……?」
夏樹が眉を少し上げた。
う~ん……と唸りながら天を仰ぐと、少し首を傾げてチラッと相川を見てきた。
「え?なに?」
夏樹が急に真剣な顔をして見つめてきたので、思わずドキッとしてしまう。
「な、なんだよ!?」
「シーっ……黙って?」
夏樹が相川の口唇に人さし指を軽く当てて、ふわっと微笑む。
いつの間にか相川の肩に夏樹の手が回されていて、グイッと抱き寄せられた。
なんか……え、雰囲気が違う……あ、いい匂い……それにしてもホントこいつ顔はカッコいいな……って近くない!?
「え、ちょ……」
「颯太 ……愛してるよ」
「へ……?」
え、愛してるって、俺のこと!?
夏樹の指が相川の頬をスッと撫でて軽く顎にかかった。
あれ、この体勢って……
夏樹の顔がどんどん近づいてくるのに、目が離せなくて避けられない。
動悸が激しくなって、なんだか顔が熱い気がする。
ぼんやりと夏樹に見惚れていると……
ゴツッ!
と言う鈍い音がした。
「い……てぇえええ!?」
一瞬何が起きたのかわからなかったが、どうやら夏樹に頭突きをされたらしい。
「目は覚めたか?」
「ちょ……マジで痛いぃいい!!」
「ムードに流されてみた気分はどうよ?だいたい、お前みたいに普段喋りまくるやつは、黙って見つめるだけでも効果あると思うぞ?ギャップ萌えってやつ?」
「え~?」
なるほど……今のがムードってやつか。
確かになんか不覚にも夏樹さんにときめいちゃったし……ドキドキしてこのままキスされてもいいかもとか思っちゃったし……って、ダメじゃんか!!
「俺をその気にさせてどうする気!?」
相川が両手で頬を押さえながら言うと、夏樹が呆れ顔でため息を吐いた。
「お前がムードの作り方を聞いてきたから実践してやっただけだよ」
「なるほど!!ありがとうございます!!俺のときめき返せ!!」
「何?あんなのでときめいたの?お前案外チョロいな」
「チョロいって言うなぁあああああ!!!女たらしのあんたにやられて堕ちないやつとかいないだろぉ!?ハッ!もしかして雪ちゃんもそれにやられたんじゃ……雪ちゃんが女たらしの毒牙にぃいいい!!」
「やかましいわっ!雪夜はこれくらいじゃ堕ちてくれねぇよ」
「俺がどこにおちるの~?」
「え!?」
「雪夜!?」
急に背後から雪夜の声がした。
「へへ、ビックリした?」
二人揃って振り向くと、ニコニコ笑っている雪夜と訝し気に二人を眺める翠が立っていた。
「え、雪夜、何でこんなところにいるの!?」
「翠まで!!何してんの!?今日は二人で買い物に行くって……」
「買い物に行ってたよ?で、クレープ買ったから、ここで食べようと思ってさ。そしたら何か見慣れた顔が二つ並んでたから、ちょっと驚かせてみようか~って話になってな」
「ねー!」
雪夜と翠が顔を見合わせて笑う。
いつからそこにいたんですか?っていうか、どこから聞いてた?
「で、二人で見つめ合って一体何やってたんだ?」
「え!?いやあの……別に見つめ合ってたわけじゃ……」
翠の冷たい視線が痛い……
「佐々木く~ん、君の彼氏どうにかしてくれよ。俺の貴重な雪夜との時間を無駄な愚痴で削り取ってくれるんだけど?」
「無駄な愚痴って何ですか?」
「お前が最後までなかなかヤらせてくれないって――」
「わーーわーーーあああああ!!!ちょっとっ!!何バラしてくれてんのさあああ!?」
「おいこら!このバカっ!!夏樹さんに何てこと話してんだよっ!?」
「いや、あの……これにはいろいろと……ちょ、痛いっ!!待って!翠さぁ~ん!!怒らないでぇえええ!!」
翠が手にはクレープを持っているせいか、容赦なく足で蹴って来る。
一方、あっさりと俺の悩み事を本人にバラしてくれた夏樹は……
「雪夜、クレープ買ってきたの?ちょっとちょーだい」
「いいですよ~!いっぱい食べて下さい!」
「これ、何味?」
「え~と、アボカドとツナと~……」
雪夜を抱き寄せて、ハートを一杯飛ばしまくっていた。
「おい、そこぉ~!!勝手にイチャイチャすんなぁああああ!!!!」
「可愛い恋人とイチャイチャして何が悪い?人のことよりも、お前は佐々木君とちゃんと話し合え。それじゃ、俺は帰るぞ。雪夜、行こうか」
「え、もういいんですか?」
「いいのいいの、あいつの悩みは佐々木君と話せばすぐに解決する内容だから。な、佐々木君?」
夏樹がにっこり笑って翠の肩をポンと叩いた。
「はぁ……わかりましたよ。ちゃんとこっちで話しつけます。うちのバカがお世話かけました!」
「はいよ~。じゃあな」
「またね二人とも!あ、ケンカしてるならちゃんと仲直りしてね!?」
夏樹がひらひらと手を振りながら、雪夜と去って行った。
「え、待って雪ちゃん置いて行かないでぇええええ!!」
「おら、立て!俺らも帰るぞっ!ゆぅ~~~っくり話聞いてやんよっ!!」
「え、あの……翠さん?目が怖いんですけど……ちょ、待ってごめんなさいっ!!助けてぇえええええ!!――」
***
その日、久々に翠の特大の雷が落ちた。
でも、夏樹が帰り際に一言添えてくれたからか、翠もひとしきり怒った後はちゃんと相川の話を聞いてくれて、なんとか最後までするのは週一ということで話がついた。
夏樹が言っていた通り、半分は翠が照れていただけらしい。
そして、夏樹に教えて貰ったムード作りを実践してみたところ――……
……あの人ホント凄いわ……
また一つ、夏樹を尊敬した相川だった――
***
(幼馴染組の話、おしまい……じゃなくて続く……かもしれない!)
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