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第22話 ーーヒートとラット ② 蒼sideーー
伊吹、欲しい本があるからって勝手に探しに行ったけど、何の本なのか題名だけでも教えてくれてたら良かったのに。
場所を聞こうにも携帯にも出ないし……
本屋好きの伊吹は、本屋に着くや否や『欲しい本があるから〜』と駆け出したはいいが、蒼にどんなジャンルのどんな題名の本を探しに行くか言わず、結局蒼は本屋の一列一列、伊吹が居ないかと探しにいかなければならなかった。
まだ本屋、何階かに分かれてある店舗じゃなくてよかった。
もし、別れてたら手も足も出ない……
そんな事を思いながら、蒼は伊吹を探していると、
あ‼︎いた‼︎
けど…、誰と話してるんだろう?
伊吹は背の高い男性と、あともう1人、背の低い男の子と話をしていた。
「伊吹、こんなところにいたの?探したよ」
「あ、蒼」
蒼が後ろから声をかけると伊吹が笑顔で振り返り、蒼の側までくる。
伊吹は、考え事をしてるとすぐ何処かに行く。
でも、あの笑顔を見ると、なんでも許してしまう。
蒼が伊吹を見つめると、
「…蒼?」
伊吹のそばにいた男の子に声をかけられた。
あの子、
もしかして……
「…柚?」
蒼は驚いたように、柚を見つめた。
「え‼︎本当に蒼?久しぶり!…あ、彼、東 蒼くん。俺の中学の時の同級生」
柚は隣にいた男性を見上げて、嬉しそうに言った。
「はじめまして。堀内孝司です」
孝司は蒼に手を差し出しすと、
「はじめまして。東 蒼です」
蒼はその手を握る。
「ねぇねぇ、蒼。俺にも彼の事、紹介してよ」
孝司の隣で、柚が待ち遠しそうにジャンプをした。
「彼は寺前伊吹。伊吹、彼は南部柚(みなみべゆず)。こう見えて俺たちと同い年」
蒼は悪戯っぽく微笑むと、伊吹が驚いたように柚を見た。
伊吹も驚くよな。
俺も昔と変わらない柚を見て驚いたから。
「蒼、こう見えては余計だよ。はじめまして。南部柚です。よろしくね」
柚は可愛く蒼を睨んだ後、伊吹の手を取り微笑んだ。
「は、はじめまして。寺前伊吹です」
柚が伊吹と握手しようと腕を伸ばした時に、柚が着ていた長袖の服の袖口が巻くられ、そこから細い手首が見えた。
あれ?
最近できたような痣が手首に付いている。
しかも…手形みたいだ。
あれは強く握られたか、どこかに押し付けられた時にしかできないはず……
柚は蒼が手首を見ていることに気づくと急いで袖口で痣をかくし、チラッと孝司の方を見た。
今、柚、孝司さんの方みたよね……
「ねぇ孝司、こんな偶然めったにないから、今からみんなでお茶しない?」
甘えたように柚が孝司をみあげると、
「そうしようか」
と、孝司が微笑む。
「やったー‼︎ね、蒼、一緒に行こうよ。いいでしょ?」
「あ…うん」
柚の手首にある痣が気になり、蒼は歯切れの悪い返事をした。
それに、さっきからオメガのフェロモンの香りがする。
しかもだんだん濃くなっていってる。
ここにいるオメガは柚だけだから、このフェロモンは柚のもので…
早く教えてあげないと大変なことになる。
蒼が柚に知らせようとした時、
「やったー‼︎決まりだね‼︎」
喜んだ柚が蒼の手を握った。
そのとたん……
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