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第35話 悪夢 ⑤ ー伊吹sideー
ゆっくりと蒼の顔が伊吹の顔に近づき、そして、そっと唇を重ね……
伊吹から口を開け蒼の口の中に舌を入れ、いつも蒼がしてくれるように、優しく蒼の舌を絡めとると、
蒼の暖かな舌は、少し震えていた。
いつも伊吹を守ってくれていた蒼のことを伊吹は一番そばで感じ、そして蒼を守っていきたいと思った。
それがたとえ自分にとって悲しい結末だったとしても…。
重なっていた唇を葵が離と、
「伊吹、俺とのキスの時、何考えてた?」
伊吹の柔らかな髪を指ですくいとった。
「蒼のこと」
「どんな?」
「前は言えなかったけど、蒼のこと好きだなって…」
「…」
「蒼、覚えてる?前も蒼、同じこと俺に聞いたんだよ」
「覚えてる。そもそも伊吹とのことは全部覚えてる」
蒼が優しく伊吹の髪に指を入れるたび、伊吹はもっと触って欲しくなる。
「前、同じこと葵に聞かれた時も、『蒼こと、好きだな』って思ってた…。それにもっと触って欲しいって…」
「そういう事はもっと早く言って」
蒼は伊吹の額にキスをした。
「蒼」
「ん?」
伊吹は蒼を見上げと、蒼は優しく微笑む。
「今日は蒼に抱きしめられながら眠りたい」
そうしたらあの夢見ない気がする。
「いつもそうしてるじゃん」
蒼はそっと伊吹の頭を撫でた。
「いつもより強くがいい」
蒼を感じられるようにと、伊吹は蒼の胸に顔を押し当てる。
「じゃあ、こう?」
蒼は伊吹の体に回した腕の力を少し強めた。
「もっと強くがいい」
伊吹も蒼に抱きついた腕の力を強め、より蒼にしがみつく。
「これぐらい?」
「もっと」
「じゃあ、これぐらい?」
「もっとがいい」
「これ以上、力を強めたら伊吹が壊れちゃうよ」
少しずつ伊吹を抱きしめる力を強くしていっていた蒼だが、さすがに強く抱きしめすぎたと思ったのか、腕の力を少しずつ緩めた。
「そばにいたいんだ、蒼…」
そばにいたい。
蒼が柚くんの頸を噛むまでは…
「好きだよ、蒼」
そういうと伊吹は目を閉じた。
蒼に抱きしめられながら眠った伊吹は、もうあの悪夢を見なくなった。
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