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第52話 ーー言えない ② 蒼sideーー

その後、蒼は弁護士である泰樹に電話をし、今日柚から聞いた話をした。 『内容はわかった。それは蒼の言うように犯罪だ。俺も出来る限り協力する』 電話の向こうから冷静に話す泰樹がいた。 「でも兄さんは企業専門の弁護士だから…」 『俺もわかるところはあるし、知り合いの弁護士にも相談してみる』 「…」 柚の相手も弁護士だ。 もし兄さんの知り合いの弁護士と知り合いだったら…? 『大丈夫。信頼できる奴だから、そんなクズ弁護士と知り合いな訳がない』 「‼︎」 蒼は二度びっくりした。 一つ目は、泰樹には蒼の不安なんてお見通しだったこと。 二つ目は、あのいつも冷静で優しい泰樹の口から『クズ弁護士』という単語が出てきたこと。 「蒼。俺に相談してくれて、ありがとう」 「‼︎」 電話口から聞こえた泰樹の声色は、先が見えない不安の中なのに、それでも柚を助けようとした蒼の勇気と、優しさを持ち合わせていた弟を誇りに思うような声だった。 「ありがとう、泰樹兄さん…」 「蒼。一人で抱え込むな。伊吹くんのことも、きっと守っていける」 「‼︎」 いつもは何でも一人で解決できていた蒼の目から、今は安心の涙がでた。 そうだ。 俺は柚の事も大事。 でも伊吹に何かあったら…と思うと、不安で…心配で仕方ない。 伊吹だけには…… 「俺から和臣兄さんに連絡しておく。抑制剤の件もきになるし…。DVによる怪我の証拠を抑えるのには兄さんの力が必要だからな」 「ありがとう…」 「蒼、今日は伊吹くんとゆっくりしなさい。後は蒼の自慢の兄さん達がみんなを守ってやる」 泰樹は蒼が兄たちに迷惑をかけたと思わないように『自慢の兄さん達』のところを冗談ぽく言う。 「ありがとう…」 蒼は泰樹の力強くもあり、優しい声を頼もしく思った。 ありがとう。兄さん…… 蒼は心の中でそう呟くと、電話を切った。

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