50 / 194
第52話 ーー言えない ② 蒼sideーー
その後、蒼は弁護士である泰樹に電話をし、今日柚から聞いた話をした。
『内容はわかった。それは蒼の言うように犯罪だ。俺も出来る限り協力する』
電話の向こうから冷静に話す泰樹がいた。
「でも兄さんは企業専門の弁護士だから…」
『俺もわかるところはあるし、知り合いの弁護士にも相談してみる』
「…」
柚の相手も弁護士だ。
もし兄さんの知り合いの弁護士と知り合いだったら…?
『大丈夫。信頼できる奴だから、そんなクズ弁護士と知り合いな訳がない』
「‼︎」
蒼は二度びっくりした。
一つ目は、泰樹には蒼の不安なんてお見通しだったこと。
二つ目は、あのいつも冷静で優しい泰樹の口から『クズ弁護士』という単語が出てきたこと。
「蒼。俺に相談してくれて、ありがとう」
「‼︎」
電話口から聞こえた泰樹の声色は、先が見えない不安の中なのに、それでも柚を助けようとした蒼の勇気と、優しさを持ち合わせていた弟を誇りに思うような声だった。
「ありがとう、泰樹兄さん…」
「蒼。一人で抱え込むな。伊吹くんのことも、きっと守っていける」
「‼︎」
いつもは何でも一人で解決できていた蒼の目から、今は安心の涙がでた。
そうだ。
俺は柚の事も大事。
でも伊吹に何かあったら…と思うと、不安で…心配で仕方ない。
伊吹だけには……
「俺から和臣兄さんに連絡しておく。抑制剤の件もきになるし…。DVによる怪我の証拠を抑えるのには兄さんの力が必要だからな」
「ありがとう…」
「蒼、今日は伊吹くんとゆっくりしなさい。後は蒼の自慢の兄さん達がみんなを守ってやる」
泰樹は蒼が兄たちに迷惑をかけたと思わないように『自慢の兄さん達』のところを冗談ぽく言う。
「ありがとう…」
蒼は泰樹の力強くもあり、優しい声を頼もしく思った。
ありがとう。兄さん……
蒼は心の中でそう呟くと、電話を切った。
ともだちにシェアしよう!