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第189話 新たな出会い ① ー伊吹sideー
「明日も来るから、そんなに悲しそうな顔するなって…」
面会時間ギリギリまで伊吹の部屋にいた蒼も、とうとう家に帰り時間となり、一旦はそれを納得した伊吹だったが、やはり蒼が部屋のドアに手をかけると、寂しくて仕方なくなってしまっていた。
蒼が帰ってしまう…
でも仕方ない。
「うん…」
「俺も伊吹と一緒にいたいの我慢するから、伊吹も頑張れる?」
自分で検査入院するって決めたじゃないか…
「うん…」
心の中ではわかってはいるが、やはり蒼と離れるのは寂しい伊吹は泣きそうになる。
「俺がいなくても、怖い夢見ないから大丈夫」
蒼が優しく微笑む。
それだけじゃないもん…
やっぱり蒼がいないの…寂しい…
でも蒼が帰ってしまうのは、仕方ない…
仕方ないけど、寂しい…
寂しいけど、仕方ない…
伊吹の頭の中で、この言葉がぐるぐる回る。
「好きだよ伊吹。大好きだ」
蒼が伊吹を抱きしめようと手を伸ばが、
「だめだよ、蒼!また俺フェロモンが……」
伊吹は咄嗟に体を避ける。
フェロモン出たら、蒼、また薬飲まないとダメになる‼︎
「いいよ、フェロモン出ても。…俺、伊吹のフェロモンの香り好きだし」
そう言って蒼は伊吹を抱きしめる。
あ‼︎
伊吹がフェロモン測定器を見ると、緑と黄色を行ったり来たり…
やっぱり…フェロモン出てる。
早く離れないと…
伊吹が蒼の胸から抜け出ようとすると、伊吹を抱きしめる蒼の腕に力が入る。
「これぐらいなら大丈夫。おやすみ、伊吹、大好きだよ」
蒼は伊吹の額にキスをし、
「明日も来るね」
そう言って部屋を出て行った。
蒼、行っちゃった…
蒼の姿が見えなくなるまで見送っていた伊吹が、部屋に戻ろうとした時、
ん?
背後から視線を感じ伊吹が振り返ると、そこには5歳ぐらいの人形のように完璧な可愛さを持つ子供が、伊吹の事をじっと見ている。
「さっきの黒髪のお兄ちゃんは、お兄ちゃんの恋人?」
つぶらな瞳で伊吹を見つめ、伊吹に近づいてくる。
「うん、そうだよ。俺の恋人。君は…迷子?」
伊吹はその子が怖がらないように、子供と同じ目線になるようにしゃがんだ。
「違うよ。僕、お兄ちゃんの隣の部屋の『山崎 来夢 』オメガだよ」
来夢は首の付けているチョーカーと、フェロモン測定器を伊吹に見せた。
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