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第193話 真夜中の訪問者 ー伊吹sideー
深夜1時。
周りの部屋は電気が消され、辺りはしんと静まりかえっているが、伊吹の部屋だけは明かりが煌々としていて、伊吹はベットに横になったまま、体は疲れ切っているはずなのに眠れずにいた。
蒼が隣りにいないと、またあの夢を見そうで…
怖くて眠れない。
あれが現実になったらどうしよう…
不安で仕方ない。
だから俺は早くオメガにならないとダメなんだ。
早く頸を噛んでもらわないと…
そんな事を考えている時、
ーートントンーー
伊吹の部屋のドアを叩く音がした。
「だれ?」
伊吹がドアを開けずに声をかけると、
「ぼく。来夢。開けてくれる?」
来夢くん⁉︎
こんな真夜中に⁉︎
伊吹は急いでドアを開けると、大きなクマのぬいぐるみを抱きしめ、パジャマのまま伊吹の部屋の前で来夢が立ちすくんでいた。
「どうしたの⁉︎さ、入って」
伊吹は急いで来夢を部屋の中に招き入れ、ソファーに座らせた。
「どこか体調悪いところがあるの?痛いとこある?」
来夢の測定器の色や、体に異変はないかチェックをするが、特に何もなく伊吹はとりあえずほっとする。
「ううん。怖い夢見たんだ。いつも見る夢。1人じゃ怖くて…。だから、今日は伊吹お兄ちゃんのお部屋にいてもいい?1人じゃ怖いよ…」
来夢の瞳は怯え、涙が溜まっている。
勝手にいさせていいんだろうか…
でも、こんなに怯えているのに1人にさせられない。
「いいよ。でも、黙って部屋から居なくなったら皆んな心配するから、看護師さんには言っておくね」
ナースコールを伊吹が取ろうとすると、
「言わないで!言ったら絶対ダメって言われる‼︎」
必死な表情で来夢が伊吹の腕を握った。
どうしよう…
そうだ!
「じゃあ、俺が来夢くんの部屋に行くよ。あ!俺、お菓子沢山あるから、それ持っていって、2人で秘密のお菓子パーティーしよう」
「え⁉︎本当⁉︎伊吹お兄ちゃんが僕のお城に来てくれて、お菓子パーティーもするの⁉︎」
さっきまでの怯えが嘘のように、来夢の顔から消えていき、瞳に喜びが浮かんでくる。
よかった。
伊吹は大急ぎでお菓子を袋に詰め、そしてテーブルに『来夢くんの部屋にいます』と、メモを残すと、2人は手を繋ぎ、そっと伊吹の部屋を後にした。
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