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第2話
緋色side
高校一年の夏休み…僕がこのバイトに“初出勤”した日に
僕の“初めて”を買ったのが大手の広告代理店で社長を務めていた
藤 蒼史郎 さんだった…
“初物は高く売れる”
は、この世界の常識で
Ω程ではないけれど、βの僕の“初めて”は藤社長に
相場の倍以上の値で高く買ってもらえた。
――もっともこの場合は“βの初物”の値段の相場であって
“Ωの初物”の値段なんて想像も出来無いんだけど…
だって“Ωの初物”がこのバイトに来る事なんてまず有り得ないから…
何故なら大体のΩは発情期突入と同時に自ら…もしくはレイプ同然で
αか、もしくは性欲に飢えた男達の餌食になり
中学卒業までに男も女も“前”も“後ろ”も
処女でいられたΩがいたら奇跡だろう…
それほどまでに“Ωの初物”は貴重で
なかなか市場には出回らないモノだから値段なんて分かりようもない…
それはさておき――
僕がこのバイトを始めて最初の一か月くらいは本当に大変だった…
ある程度は藤社長が初めての僕に男同士のやり方(主に僕がネコとしての役割)や
このバイトで注意しなくてはいけない事などを
約一週間、僕に他の客を取らせる事無く店に通いつめ、優しく教えてくれたから
知識としての苦労は無かったんだけど――
(当然だけどこの一週間の間、僕は藤社長に優しくとはいえ散々抱かれ
身体の方でも色々と教え込まれた…)
いざ、藤社長以外の客を取る事になり
僕は初めてこのバイトの辛さを知った…
甘くみていたんだ…この世界を。
僕は馬鹿で無知で世間知らずなガキだったから…
当然客は藤社長の様に見た目が良く、優しい人達ばかりではなく――
生理的に受けつけられそうもない匂いや外見の客や
特殊なプレイを望む客…
更には金を払っているからと複数人でのプレイや
レイプまがいに乱暴してこようとする客など
本当に様々な客が僅 か一か月の間に僕を指名し
気の済むまで僕を抱きつぶした…
――手っ取り早くお金が稼げて、楽なバイトはないかと考えた結果
身体売ればいいじゃんなんて浅はかな考えでこのバイトを選んだ結果がコレだよ…
ホント、あの時の僕のバカさ加減と言ったら…
僕はシャワーの栓をキュッと閉め
手近にあったバスタオルで軽く頭や身体を拭きながら
一番しんどかった時の事を思いだす…
――しかも僕はβ男性体…
Ωの男の様に勝手に濡れる尻孔 なんて持っていないから
客を受け入れた翌日には孔の縁 が腫れあがり
とてもじゃないけど客を取れる状況じゃない事なんてしばしばあったのに
それでも僕は早くあの家から…兄から逃れたい一心で
無理して客をとったりして身体壊したりなんかしてホントあの頃は…
僕はバイトで無茶して寝込んでしまった時の事思いだし
思わずプッと吹きだしながらバスルームから出る
――あの時はホント…今思いだしただけでも笑っちゃうよね…
僕は丸二日間…具合が悪くてトイレ行く以外ずっと部屋で寝込んでたっていうのに
両親はそんな僕に気づく事も無く二日間ほったらかし。
ね。笑っちゃうよね。
僕、どんだけ空気なんだよっていう…
僕はなおも可笑しくてクスクスと笑いながら
ホテルに入った時に脱衣所に脱ぎっぱだった自分の学生服に着替え始める
――更に皮肉なのが両親ですら僕をほったらかしにしていたにも関わらず――
何故か僕を嫌っているハズの兄が真っ先に僕の異変に気が付いて
嫌々お粥 とか風邪薬を持ってきて面倒みたっていう…
あの時の兄の顔…
あんなに嫌そうな顔するくらいならほっときゃよかったのに…
よっぽど学校で何か言われんのが嫌だったんだろうなぁ~…
“優秀で弟想いのαのお兄様”は…
僕は着替えを終え、皮肉な笑みを浮かべたまま藤さんの待つベッドルームに戻る。
すると藤さんはもう着替えを済ませ、身なりを整えており――
「…藤社長…シャワーは?」
「家に帰ってからでいいよ。どうせ独り身だしね。
それより――早く家に帰らないとお兄さんが心配するんだろ?
送るよ。家まで。」
「ッ、だからぁ~…心配なんて誰もしてませんって…」
「じゃあ一緒に食事でもして帰る?」
「うっ…」
「クスッ…ホラ、ちゃんと家から少し離れたところで車から降ろしてあげるから
遠慮しないで…」
「…それじゃあ…お言葉に甘えて…」
そう言うと僕は藤さんに腰を抱かれながら
ホテルの部屋を後にした
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