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第5話

翌日… 緋色(ひいろ)は兄が学校に行ったのを確認した後、10分後に家を出る ―――お腹…空いたな… グゥ…と小さく鳴った自身の腹の()に、緋色は小さく苦笑を漏らす… 昨晩はバイトのせいもあってか何だかんだで疲れ切っていた緋色は 歯を磨いた後はそのまま眠ってしまい… 結局家に帰ってから一晩…緋色は何も口にしないまま朝を迎え、登校するハメとなり… 緋色は口から「ハァ…」とため息を吐きだすと 顔色が(すぐ)れないまま…力の無い足取りで学校に向かって歩きだす… ―――やっぱり…兄貴の事なんか気にせずに…    昨日、藤社長に何か奢ってもらえばよかったな…    夕食どころか朝食さえ…    期待出来ない事は分かり切っていたハズなのに… 「ハァ…」…と、緋色の口から再びため息が漏れる… 一応…今朝緋色はリビングに顔を出しては見たものの―― 共働きの両親は既に出勤していて家にはおらず… 当然…両親には“いないもの”として扱われている緋色の為にと… テーブルの上に朝食などが用意されているハズもなく… ―――コンビニにでも寄るか…流石に何か食わないとヤバい気がするし…    ついでに昼飯も買って――いや、昼飯は購買のでいっか… 緋色は目についた近くのコンビニへと入り―― チョコクリームコロネとイチゴオレを購入すると 早速チョコクリームコロネをハムッと一口頬張りながらその場から歩きだす… すると気配を殺した何者かが緋色の背後にヌッと立ち―― 「ひ・い・ろ・く~んっ!」 バシンッ!と緋色の背中は勢いよく叩かれ 「ッ!ぶはっ、けほっ、けほっ、、」 「うわっ!きったねっ!」 その衝撃で緋色は口に含んでいたパンを思わず吹きだしてしまい―― まだそんなに咀嚼(そしゃく)していなかったパンの一欠けらは コロコロと転がってそのまま道路わきの側溝へと落ちていく… 「けほっ、けほっ、…ッ、『うわっ!きったねっ!』じゃねーよっ!!  何してくれてんだよ!せっちんっ!!」 緋色が()せながら、今しがた自分の背中を思い切り叩き―― しかしそれでも悪いと思ったのか自分の横に立ち 緋色の背中を苦笑しながら擦る人物に、緋色はジットリとした眼差しを向ける… 「ごめんごめんて!  いやぁ~…緋色の背中ってさぁ…つい“叩きたくなる背中”っていうか?  なんかこー…叩きたくなっちゃうんだよねぇ~…気持ち的に。」 「…なんだよ…気持ち的にって…」 緋色は自分よりも若干背が高い人物 鑪 清司(たたら せいじ)を、ヒリヒリと痛む背中に手を伸ばしながら 恨めしそうに見つめる… 「ほら、緋色の背中って何時見ても曲がってんじゃん?  だからもっとこー『シャキッとしろっ!』って意味合いを込めてさぁ…」 「…普通に『猫背だから直した方が良いよ。』って言えよバカ。  朝からいてーわ。まったく…」 緋色は不貞腐れながら再びチョココロネを頬張ると そのまま清司を無視して歩きだしてしまい 「あっ…待ってよ緋色っ!悪かったってっ!ねぇってばぁ~!」 清司は慌ててそんな緋色の後を追う 鑪 清司は、緋色と同じβであり 緋色が唯一友達と呼べる人物でもある 明るく――何時もどんよりとしていて暗い 卑屈な性格の緋色とはまったく正反対の性格の持ち主で クラスメイトのほとんどと仲が良く、その人懐っこい性格から 生徒会書記を任されほどには人望も厚い それ故周りからは 「なんで清司はあんな根暗な緋色なんかと仲がいいんだ?」 ――と、疑問に思われる事もしばしばで… ―――ホント…なんでせっちんは僕なんかと友達でいてくれんだろ…    まあ…有難いんだけどさ… 緋色はそんな事をひっそりと思いながら―― 二人はのんびりとした歩調で学校へと向かう… するとあと少しで校門といったところで人だかりが出来ていて―― 「…アレって――緋色の兄ちゃんじゃない…?」 「え…」 緋色が言われて校門の方に目をやると人だかりの中心で 頭一つ分だけ高い自分の兄、真紅(しんく)の姿を捉え―― ―――ああ…あれは――取り巻き連中に捕まったのか… αとΩは当然ながら何処へ行っても珍しい… 特に真紅はもうすぐ交代の時期とはいえ、この学校で生徒会長をしているうえに αで頭脳明晰…容姿端麗ともなれば当然、校内何処へ行っても注目の的で―― そんな真紅に取り巻きがつかない訳もなく… 何時も真紅の行く所には人だかりができてしまい 今日は運悪く校門手前で取り巻き連中に捕まったらしい… ―――毎度の事ながら…わが兄ながらご苦労な事で… 緋色は他人事のように取り巻きに(たか)られている真紅を見つめながら チョココロネを頬張る そこに隣に立っていた清司が 羨望(せんぼう)とは違う…何処かウットリとした表情で呟いた… 「…緋色の兄ちゃんって…相変わらずカッコイイよな…」 ―――…ん? 「…せっちん…?」 「ん?あっ…いやっ、なんでもないっ!!」 「???」 「それよりホラっ!早く行かないと遅刻しちまうっ!急ぐぞっ!」 「ちょっ、せっちん待ってっ!」 清司はチョココロネを握っている緋色の手を掴むと 慌てた様子で緋色を引っ張りながら校内へと入っていく… 「………」 そんな二人の様子を 真紅は取り巻きに囲まれながら鋭い視線で見つめ続けた…

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