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第6話

緋色side 僕が通うこの雷燗(らいかん)高校は わりと進学校としても知られる公立の高校で―― 男女に限らず、第二の性がα、β、Ωが共に通う共学の高校でもある。 生徒の数が600に対し 今年入学した数も含めてαの数が80人、Ωの数が20人と一気に増え 学校側としては、このことについて大分頭を痛めているのだとか… 何故って? αの数が多ければ多いほど、それだけ進学率などが上がるから 学校側からしたらその点については文句はないのだろうけど―― 問題はΩ… 彼等がいるだけで、学校側としては何かと対策を講じないといけなくなるから… それも何故かって? 彼等は定期的に発情期が訪れ、αを誘う上に そのせいで学校内でαによるΩに対する性犯罪が起きかねない… その為まず学校側としては絶対にαとΩを同じクラスにしない 近づけないよう考慮(こうりょ)しないといけなくなるし その上万が一にも備え、教員達は常にαとΩ用の抑制剤を持ち歩く事を強いられ… 保健室にはいつも以上に多くの抑制剤とピルを常備しなきゃいけなくなり 費用がかさむ上に 更には監視カメラが設置され、普段一人しかいない養護教諭が三人に増え 常に保健室に誰かがいる状態にしないといけなくなる――などなど… 兎に角学校側としては負担が増え――Ω対策に頭を悩ませているんだとか… ―――まあ…学校側がどんな苦労を抱えようが――    βの僕には関係ないんだけども… 僕は真面目に授業のノートをとりながら、ふと教室の窓側の列に目をやる 僕のクラスには今現在5人の“α様”がいて―― 窓際の列は“α様専用列”となっており… その見目麗しい5人のα全員が、陽光射しこむ窓際の列に鎮座している光景は かなりの圧巻で―― ―――ああやってただ黙って座っていれば――    害のない“綺麗な置物”なんだけどなぁ… 僕はそんな事を思いながら彼等から視線を外そうとしたその時 窓際列の丁度中央…前から三番目の席に座る“5人のα様”の紅一点… 楊麗院 仁火(ようれいいん きみか)と目が合い―― ―――げっ… 僕は慌てて彼女から視線を逸らすが―― 今度は微笑んでいる彼女からの視線が、刺す様に僕に突き刺さり… ―――あちゃ~…一番目を合わせちゃいけないヤツに… 僕は青ざめながら必死にノートをとるフリをし 彼女からの視線に気づかないフリをし続ける… しかし彼女は授業そっちのけで僕の事を見続け―― ―――いつまでコッチ見てんの…頼むから前向いてよ前…    先生も彼女があからさまにコッチ向いてんの気づいている癖に    注意しないし…    ああホラ…彼女の視線に気づいて後ろのα2人までコッチ見てんじゃんっ!    ああもうサイアク… 僕は三人のαプラス、彼等の視線に気づいた他のクラスメイトによる 視線の集中砲火を浴び…背に大量の冷や汗をかきながら この地獄のような時間を耐え忍ぶ… 暫くして、授業の終わりを告げるチャイムが この妙な緊張感を孕んだ空気を漂わせる教室内に鳴り響き―― 「ヒーロ!」 「ッ、」 授業が終わり――先生が教室から出て行くのと同時に早速彼女… 楊麗院 仁火さまより僕にお声がかかる… 「さっき僕と目が合ったね!ヒーロ!…嬉しいよ…」 「ハハ…ヨロコンデイタダケタヨウデナニヨリデス…」 僕はなるべく彼女と目を合わせないよう… さっきまで使っていた教科書とノートを、ギクシャクとした動作で机の中にしまいながら 引きつった笑みを浮かべ まるで自動音声ガイダンスのような抑揚のない喋り方で答える… すると仁火さまがスゥ~…っと僕の背後に回り込み―― 「ヒーロっ!」 「うわあっ!」 いきなり仁火さまが僕に背後から覆い被さる形で、勢いよく抱きしめ 僕は思わず大声を上げながら、仁火さまの重みで机に激突しそうになるのを 咄嗟に両手を机につき、両足をふんばりながら何とかそれに耐える… 「ん~っ!やっぱりヒーロは可愛いなぁ~…食べちゃいたい!」 「ちょっ、お…、おも…っ、ッ、くるし…っ、  仁火…さまっ、苦しいですってっ、ッ、離して…」 僕は自分の首を絞めるように回された仁火さまの腕を 片方の手で精一杯強く掴んで外そうともがくがびくともせず… ―――チッ…やっぱαは女性でも力強いなぁ…っ!クソが…っ、 僕は「う”ーう”ー」と唸りながら、仁火さまの腕の中からの脱出を試みる… そこに仁火さまが僕の首筋に柔らかい唇を押しあててきて―― 「ッ!?ちょっと仁火さまっ?!」 僕がその感触にドキッとし、慌てて首を後ろに回そうとしたその時 「…何してる仁火…  楊麗院のご息女ともあろう者が――  こんなゴミみたいなβ相手に盛って…恥ずかしくのか?」 という冷たい言葉と共に 僕の身体に背後から()しかかっていた仁火さまの圧は消え―― 「…なにすんだよトーマ…  僕とヒーロの甘い時間を邪魔するだなんて――    万死に値するよ…?」 代わりに仁火さまの不満に満ちた… とても女性とは思えないドスの利いた低い声が背後から発せられ―― 僕は恐る恐る背後をチラリと覗き見る… するとそこには身長178㎝ある仁火さまの服の襟首を ムンズと片手で鷲掴む更に背の高い男性―― 神宮 冬馬(かんのみや とうま)が立っている姿が見え… 「…お前こそ何のつもりだ?  毎回毎回事あるごとにこんな箸にも棒にも引っかからん…  虫けらみたいなβに構って…  見ているコッチが不快だと――何度言ったら分かるんだ…?」 冬馬は自分の事を射殺さんばかりに()めつけてくる仁火さまの視線を 何食わぬ顔で一瞥したあと、一瞬だけ僕の方にその(さげす)んだ視線を向ける。 ―――う”っ…やっぱ僕…この人苦手だ… 神宮 冬馬はこのクラスの“5人のα様”の中で一番背が高く―― 窓際列の最後尾の席に鎮座するαで… 何時も寡黙で沈着冷静… その端正な顔立ちから、表情を滅多に変える事の無い鉄面皮ではあるものの 他のαが馬鹿な事をしたらたしなめ α以外のクラスメイトとも普通に相手を蔑む事無く接し 傲慢さを感じさせない珍しいαなのだが… でも何故か…僕に対しての態度だけは あからさまに嫌っている事が分かるくらい何時も冷たくて―― 「…そんな事言って――  本当はトーマもヒーロの事が欲しいんでしょ~?  アイツを――“見かえす”為に…」 「仁火!」 「…?」 仁火さまの一言に…僕の頭にクエスチョン・マークがこれでもかと並ぶ。 そこの教室のドアがガラッと開き―― 「…もうすでに――始業のチャイムは鳴ったと思うが――  そこの二人、何してる?」 「…すみません。」 「今席に着きま~す。」 先生に注意され、二人は自分の席へと戻って行くが その際、冬馬がやはり冷たい視線でチラリと僕の方を見て… 「ッ、」 ―――怖いよその目…    なんで…    なんで兄貴と…真紅とおんなじ目をして僕の事見るんだよ…

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