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第7話

時刻は午後4時を少し回り… それなりの広さのある放課後の生徒会室で―― 「…いい加減…俺の弟に必要以上に構うのは止めてもらおうか…仁火(きみか)…」 「え~?ど~してぇ~?」 まるで何処かの社長が使うかのような高級感あふれるプレジデントデスクを前に… これまた黒い革張りの…とても生徒が使う物とは思えないような椅子に腰かけ 次回の校内行事に関してまとめられた資料に軽く目を通しながら この部屋の主たる生徒会長…菅原 真紅(すがわら しんく)がその口を静かに開き―― それに対して生徒会№2である副会長…楊麗院 仁火(ようれいいん きみか)が プレジデントデスクに腕を組んで寄り掛かりながら―― 椅子に座る真紅を見下ろすように、その不貞腐れた顔を向けると 実に不服そうに口答えをする。 「別にいいじゃん?構ったってさぁ…なんたって同じクラスメイトなんだし?  それに誰かさんと違って――ヒーロってばすっごく可愛いし…  つい構いたくなっちゃうんだよねぇ~…」 仁火がその琥珀色の瞳を細め…真紅を挑発するかのような口調で言葉を続ける。 「特にあの何時も人の目を気にして――  ビクビクしているところとかホントもうサイコー…  虐待されてた犬みたいで…もっと怯えさせたくなっちゃう…」 「…」 サディスティックな笑みを浮かべ―― 仁火から発せられたその言葉に真紅の右の眉尻が一瞬ピクッと跳ね上がり… 目にしていた資料からスッと視線を外すと 流れるようにその鋭い視線を仁火の方に向けながら言葉を発する… 「…俺はお前の“性癖”の話を聞いているんじゃない。  弟に“構うな”と言っているんだ。」 「だから何で?僕が誰を構うかは僕の勝手でしょ?  いくら可愛い可愛いヒーロのお兄ちゃんだからって…  僕のこーゆー関係にまで口出ししないでもらえるかな?  ねぇ…トーマ…」 仁火がデスクに寄り掛かり―― その視線を生徒会長が座るプレジデントデスクの前に設置された 6人用のミーティングテーブルに今も無言で座り… 恐らく真紅が目を通していた資料と同じものに目を通しながら 次の行事に必要とされるおおよその費用などを算出しながらメモをとっていた 会計の神宮 冬馬(かんのみや とうま)に向ける… すると仁火から話を振られた冬馬はメモをとる手を止め―― 一瞬その端正な顔を苦々しそうに顰めるが またすぐに何時もの表情の読み取れない鉄面皮に戻ると 小さく「フゥ…」と小息を吐きながらその視線を仁火に向け 呆れたようにその口を開いた… 「…そもそも俺はお前の“こーゆー関係”とやらに興味が無い。  くだらない話を俺に振るな。仁火…」 「え~…?よくそんな事が言えるよね~…  トーマだって――ヒーロの事、虎視眈々と狙ってる癖に…」 「…ッ、」 仁火のその言葉に 冬馬は今度こそ不快感を露わにしながらその顔を歪め、仁火の事を睨みつける… そこにふと、冬馬の視線が 仁火の後ろで険しい表情をしている真紅とも合ってしまい―― 「…」 「…」 二人は間に立つ仁火を無視し… 互いを牽制し合うような鋭い視線で無言の睨みあいを始め―― 妙な緊張感を孕んだ空気が生徒会室に漂い始めるなか そんな二人の様子に仁火の口角が微かに上がる… そこに突然ガチャッと生徒会室のドアが開き―― 「すっ、すみませんっ!遅れてしまって――」 息を弾ませ…少し慌てた様子の鑪 清司(たたら せいじ)がヒョコっとドアから顔を覗かせ その足で生徒会室に踏み入れようとするが―― 「…」 「…」 「…」 ―――う”っ… 自分に向けられた3人の刺す様な視線と 凍り付かんばかりの場の空気に清司がたじろぎ… 思わずその場から後ずさろうとする… しかし―― 「…何をしてる?清司…早く中に入れ。」 「あ…はい…」 真紅の一言に清司は申し訳なさそうにおずおずと中へと入り… 相変わらず冬馬と仁火から刺す様な視線を感じながら 清司は自分の席に鞄を下ろす… そこに真紅が清司に声をかけ―― 「…ところで清司…俺が頼んでいた事は?」 「あ…」 真紅の問いかけに 鞄を席に下ろしたばかりの清司が再び慌てた様子で真紅の傍へと駆け寄り その耳元に顔を近づけると、清司が小さな声で真紅に耳打ちをした… 「…駅前まで緋色の後を付けたのですが――  やはり何時ものようにバスターミナル付近で見失ってしまって…  お…お役に立てなくて…ごめんなさい…」 「…いや、いんだ…  俺の方こそ――こんな私情にお前をつき合わせてしまって悪いな。」 「ッ、いっ、いえ…っ!そんな事は…」 真紅を前に――清司の声は徐々に小さくなっていき… 頬を紅くしながらその場で俯いてゆく… その様子に仁火が薄ら笑いを浮かべながら茶々を入れる 「なぁ~にぃ~?二人してこそこそと…  あ~!さては――今晩二人でデートの約束とか~?  困るわ~そーゆーの…イチャつきたいんなら誰もいないところでやってくれる?  目障りなんだけど。」 「…」 茶化す仁火に真紅は一瞬侮蔑の視線を向けるが―― すぐにその視線を逸らすと、何事も無かったかのように口を開いた。 「…まだあと三人ほど揃ってはいないが…  本日の議題に入りたいと思う。」

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