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第8話

駅前のロータリーには、バスターナルやタクシー乗り場などがあり… 時間帯が時間帯という事も相まって、学校帰りの学生や買い物に向かう主婦など 様々な人々が行き交い、歩道を埋め尽くすなか―― 緋色(ひいろ)は“バイト”へと向かう為の足となる 送迎の車が待機しているバスターミナルへと一人…俯きがちに暗い表情で向かう… 「ハァ…」 ―――今日はなんかもう…疲れた… 結局緋色は仁火(きみか)と目が合って以降…授業時間以外はずっと仁火に付き(まと)われ―― 更にはその仁火をたしなめる為なのか何なのか 何故か冬馬(とうま)まで一緒になって緋色に付いて回り… 学校内で生徒会長の次に目立つα二人に挟まれ それこそ昼食の時も、トイレに行く時すらも二人は緋色を挟んでずっと 「離れろ。」「離れない。」の押し問答を、人目を気にせず繰り広げるもんだから 緋色は嫌でもその日一日クラスどころか学年の注目を集める事となり… ただでさえαで優秀な兄と比べられたりするせいもあってか 人から注目される事を極端に嫌っている緋色にとって… 今日の日のような出来事はまさに拷問でしかなく―― 「いっ…っっ、」 思いだしただけでも緋色の胃はストレスでキリキリと痛み… 緋色は思わず痛みだした胃の辺りを手で押える… ―――仁火さまはともかく…今日に限ってなんで冬馬までもが一緒になって…    しかもあんな嫌そうに顔(しか)めながらさぁ…    そんなに嫌ならほっときゃいいのに―― 緋色の脳裏に一瞬… 過去に自分が体調を崩して寝込んだ時に 嫌々自分の事を看病した兄、真紅(しんく)の顔が過り―― 胃痛と相まって緋色の顔は益々苦し気に歪む…     ―――ずっと嫌悪に満ちた目で僕の事見ててさ…    それでいて仁火さまが僕にちょっかいかけたりすると    更に不機嫌そうな顔しながら仁火さまを止めたりして…    ホント…冬馬は一体なにがした―― 「…ッ!」 緋色は急にハッとした表情を浮かべながらその場で足を止めると 人混みの中で、茫然と立ち尽くす… 「ひょっとして…」 ―――いやいやそんなまさか… 「冬馬は仁火さまの事が…」 ―――好きなんじゃ…? 「………」 突然降ってわいたかのようなその考えに… 緋色の目の前が突然パァッ!と開け―― 今まで胸の中で渦巻いていたモヤモヤが晴れていくような感覚に 緋色の表情もどこか明るくなる。 ―――そっか…だから冬馬は仁火さまが僕に構うのを嫌って――    事あるごとに僕に構おうとする仁火さまを止めていたのか…    そっかそっか…なるほど納得…    そりゃ自分の好きな人が目の前で他の誰かを構っていたら面白くないし    邪魔したくもなるよな。うんうん。 これなら今までの冬馬の行動の全てに説明がつく、と… 緋色はやっと探し求めていた答えに辿り着いたような気がして 気持ちが軽くなっていく… ―――あんな人を殺しそうな目で僕の事を見てくるのも    僕に対してだけあからさまに嫌っている態度をとってくるのも――    全部仁火さまの事が好きだから…    だから冬馬は僕を目の敵に―― すべてに合点がいき―― 緋色の表情は晴れ渡り…妙にスッキリとした気分で、足取りも軽やかに 緋色はその場から歩きだす。 ―――そうと分かれば――    明日からは極力仁火さまに関わらないようにしないと…    それにはまず…どうしたものか… 「う~ん…」と唸りながらも緋色は人混みを華麗に避け―― バスターミナルで複数停車しているバスの間に隠れるようにして停まる 見慣れた一台のSUV車へと近づいていった…

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