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第11話

「…いちキャストのお前じゃ話にならない。  オーナーをだせ。」 「…だからさぁ~…アンタもいい加減そーゆーの止めたらぁ~?  緋色(ひいろ)だってこーゆー事されんの迷惑だと思うぜ?」 「…お前には関係ない。」 「関係あるなしの問題じゃねーんだわ。  そもそも緋色からしたらアンタも“あの客”と大して変わんねーと思うぜ?  アンタの緋色への執着っぷり…異常だよ。」 「…お前にだけは言われたくない。」 (ふじ)はその端正で穏やかな顔を微かに不快そうに歪めながら 目の前の男性…(れい)を睨むように見つめ―― 零はそんな藤からの視線をものともせず 口角を上げた、人の悪い笑みを浮かべながら藤の瞳を見つめ返す… そんな二人のやり取りを 少し離れたロビーで三人掛けの深紅のソファーの背もたれに隠れながら 様子を(うかが)うようにコソコソと見ていた緋色が―― 同じく自分の隣で様子を伺っていた(みお)に向かって話しかける 「――一体…何があったんですか…?藤社長と零さん…」 「おおっとぉ~?絶賛当事者であるひいちゃんがソレを聞いちゃう?」 「え…」 「…ひいちゃんにあの変態…じゃなかった  (はざま)社長からの予約があった事は?」 「…さっき…送迎の車の中で松田さんから聞きました…」 言ってて自分の声が少し震えていることに気づき… 緋色はその表情を少し(しか)めながら(うつむ)く… 「そう…でよ…藤社長――  どっからその情報を得たのかまでは知らないけれど  ひいちゃんがココに着く20分くらい前にすっごい不機嫌な様子で  『あんな事あったのに…また緋色に間の相手をさせるとはどういう事だっ?!』  ――ってお店の方に怒鳴り込んできて…」 「…藤社長が…?」 ―――まさか…松田さんが言ってた藤社長が怒ってた理由って…僕の為…? 緋色が俯いていた視線を藤へと移す 「それでさぁ…そんな藤社長を零が止めに入ったってワケ。  もっともあの様子だと――止めに入ったというより  (あお)ってるようにしか見えないんだけどね~…」 依然険悪なムードを漂わせながら対峙をし続ける二人に対し… 澪が呆れたような視線を向けながらフッとほくそ笑む… そこに――緋色と澪の背後に何者かの影がスゥ…っと忍び寄り―― 「それにしても…相変わらずモテモテですね…緋色君…」 「うわあっ?!」 緋色の耳元に…何者かが息が吹きかけながら囁きかけるように話しかけ―― 緋色がビックリして思わず悲鳴をあげながら振り返る… するとそこにはこの店の№3キャスト…αで猫専の長身の男性――万桜(まお)が 腰をかがめながら緋色のすぐ背後に立っていて―― 「まっ…万桜さん…っ!脅かさないで下さいよっ!」 「シー…あの二人がコッチむいちゃう。」 「あ…」 万桜に言われて緋色は慌てて口を(つぐ)み―― 万桜が緋色と澪の間に割って入るように若干強引にその身を(すべ)り込ませる 「チッ…なんでコッチ来た…万桜…」 澪がその可愛らしい顔をあり得ないほど嫌そうに顰め―― 自分と緋色の間に突然割って入った万桜を睨みつけながら これまた普段ではなかなか聞く事のできない低く、男らしい声で 万桜に向かって口をきき 万桜がそんな澪に対し、人を見下すような冷たい視線を向けながら その薄い唇に皮肉気な笑みを乗せて口を開く 「なんでって…僕がコチラに来た事が気に入らないのでしたら  どーぞ澪さんだけ何処かに行ってもらっても結構ですよ?  僕がお話ししたいのは緋色君だけなんで…邪魔しないでもらえます?」 「あ”?なんで俺の方が移動しなくちゃいけねーんだよ。  退()くなら後から来たテメーの方だろうがよ。てか邪魔ってなんだよ。  俺の方が先に緋色と話ししてたろーがっ!テメーこそ邪魔すんなっ!」 「ッ!?み…澪…さん…?」 「ハァ~…相変わらず躾がなってませんねぇ~…  αの僕が邪魔だと言ったら…Ωの貴方がそこを退()くのは当然でしょう?  立場をわきまえなさい。発情期でヤる事しか考えない駄犬の分際で…」 「あ”ぁっ?!その駄犬に突っ込んで…  ヘコヘコ腰振る事しか能がないα様がなんか(おっしゃ)ってやがるなぁ~…」 「…なんですって?」 「…や”んのか?ゴラァ…」 「ちょ…澪さんも万桜さんも落ち着いて…っ、こんなところで喧嘩は――」 緋色の隣で突然… 険悪な空気を隠すことなく睨みあいを始めた澪と万桜に緋色は焦り 二人を止めに入ろうとしたその時 エントランスの両開きのドアがギィィ…と言う軋む音とともに開き―― 「――なんだ…営業時間開始と同時に私が一番乗りしようと思ってたのに…  もうすでに先客がいるとは…これは驚きましたなぁ…  ねぇ…藤社長…」

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