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第12話

「…(はざま)…」 「…」 (ふじ)が表情を険しくしながら玄関先に立つ2m近い長身と―― 恐らく優に200kはあると思われる巨漢(きょかん)の男性を睨みつけながら 男性の名字を忌々し気に呟き… その隣に立っていた(れい)の顔からは 藤に見せていた時のような余裕のある笑みは消え―― 代わりにその華のある美麗な顔には一瞬にして嫌悪が浮かび まるで汚物でも見るかのような目で 玄関先に立つ男性を威嚇するかのように睨みつける… 「フッ…」 そんな二人の様子に店内に入ってきた男性…間はその口元をニタァ~…と歪め… 見るものをゾッとさせるような笑みを浮かべると 聞くものを不快にさせるようなねっとりとした口調と怖気(おぞけ)の立つような声色で 正面に立つ二人に向けて声をける… 「…藤社長に零くん…  綺麗な男性が二人でこんなところに突っ立て――いかがなさいました?  まさか――この私のお出迎えでも?」 間が頭に被っていた洒落た黒のフェルトハットをスッと頭から取り去り 二人に向け…ゆったりとした歩調で、その巨体を揺らしながら近づき始め 二人はそんな間を睨みつけながらグッと身構える… 「フフ…何もそんなに身構えなくても――  今日私が此処に来た目的は唯ちゃんだけです…貴方がたに用などありません。  もっとも――二人が私に“どうしても相手をしてほしい”というのであれば――  二人まとめて“抱いて差し上げても”よろしいですよ?  ただし…唯ちゃんを存分に可愛がった後になりますが…」 「…ッ、」 「…きっしょく悪いこと言うな…この…ブタが…!」 「おやおや…」 「――――ッ!?」 藤の顔のすぐ横を 間の片手が風を切りながらシュッと伸び―― 「ッ!?ガッ、、あ…?」 藤の隣に立っていた零の首をその大きな手がガッと掴むと 身長184cmある零の身体が微かに持ち上がり―― 零はつま先立ちの状態に… 「あ…」 その光景を目の当たりにした緋色が 咄嗟に隠れていたソファーから立ち上がろうとするが―― 「ッ、ダメ!緋色君…っ、」 隣にいた万桜(まお)が緋色の両肩をグッと掴み、ソレを止める 「ッ万桜さん…でも…っ、」 「…いいから…アイツなら大丈夫だから…」 「…ッ、」 万桜にそう言われ… 緋色は藤と零の傍に駆け寄りたい気持ちをグッと堪えながら二人を見守る… そこに零の首を掴んでいた間が、醜い笑みを浮かべながらその口を開き… 「…客にむかってブタとは…これはまた随分な口の利き方ですねぇ…零君…  キャストとしての礼儀がなってないのでは?  これだからβの親から生まれたαは…」 「…ッ!」 その言葉に零の表情からは首を掴まれている苦しさとは別に 屈辱と怒りの色が入交―― 零が嫌悪に満ちた瞳で、目の前の間を睨みつける 「ッ、テ、メ…っ、」 「おお…怖い怖い…ですが――」 「ッ!うぐっ…、」 零の身体は更に持ち上がり…遂につま先は床から離れ 零の身体は宙ぶらりんの状態に… 「…同じαに向かって粋がってみたところで――意味ないですよ?零君…  もっとも私がβやΩであったのなら――今の“威嚇”で恐れおののいて  チビりながら怯んでいた事でしょうけどねぇ…フフ…」 間が顎の肉を揺らしながらその醜い笑みを深くし… 息苦しさでもがき苦しむ零の顔を見ながら肉厚な舌で舌なめずりをする… そんな間に様子に―― 今まで緋色の隣で事の次第を眺めていた万桜がその顔を嫌悪で顰め… 吐き捨てるかのように呟いた 「…あんな醜悪な男が…僕と同じαだなんて反吐がでる…」 「…」 普通αとΩは、親がどんなに醜い姿をしていても第二のバース性に引きずられ… その外見はαならスラリとした高身長に、しなやかで筋肉のつきやすい… 均等の取れた美しい肉体へと変化していき 顔だちも精悍で洗練された美しさを感じさせるものへと変わり Ωならその外見は全体的に丸みをおび… 筋肉のつきにくい…華奢な体つきへと変化していき 顔だちも柔和で可愛らしく…庇護欲をそそるような愛らしいものへと変わっていく… しかし目の前の間は太りにくいハズのαでありながら その肉体は醜く肥え太り… とてもαとは思えない程でっぷりと前に突き出したその腹の肉は まるでコーンからあふれ出そうになっているソフトクリームのように スラックスの腰回りからだらしなく溢れだし… その上その顔だちも太った肉のせいか 目につくところは全体的に醜く(たる)んでおり… 果たして目の前にいるこの男は本当にαか?と疑いたくなるようなその外見に 美醜にこだわりを持つ万桜の顔が益々不快気に歪むなか… エントランスホールには零の苦し気な呻き声が妙に大きく響き渡り… その場に居た誰しもが息をひそめ…事の成り行きを見守る中で―― 零の首を締めあげている間が薄ら笑いを浮かべながらザッと周囲を見回し―― 再びその視線を零に移すと、その醜く弧を描く分厚い唇を開き、声を上げる 「唯ちゃ~ん…出ておいで~…近くにいるんでしょ~?  そろそろ私との約束の時間だよ~?」 「…ッ!」 間に自分の源氏名を呼ばれ―― 緋色が青ざめながらその肩を震わせる… 「唯ちゃ~ん…ドコかなぁ~?  早く出てこないとー…  零君がもぉ~っと苦しむ事になっちゃうよ~?」 そういうと…間は更にギリギリと零の身体を持ち上げ始め―― 「かはっ…、がっ、、あが…っ、ぁ…」 零が先ほどよりも更に苦し気に呻き… 宙ぶらりんになっている足をバタつかせる… その様子に遂に耐え切れなくなった緋色はその場からバッと立ち上がり―― 「ッ!緋色君っ?!」 「ひいちゃんっ!」 緋色は(みお)と万桜が慌てて自分に向けて伸ばしてきたその手を避けると 三人のいる階段の方へと無言で駆け出して行った…

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