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 普段はあまり身に付けることのない、フレームが太めの眼鏡とマスクをつけて、いかにも変装をしてますといった出で立ちで、聖はIMに訪れていた。しかも、実は二度目の来店である。  一度目に来たのは、ちょうど一週間前のこと。問い合わせを入れた見学のためだ。 『施設に関しては以上ですが、いかがでしたか?失礼ですが君野さんは、なにか芸能関係のお仕事をされてます?』 『えっ』 『施設もですが、個人情報の取り扱いを特に気にされているようだったので。もしそうでしたら、尚更当店をおすすめさせていただきます。ご覧いただいた通り、こちらのビルの別フロアには弊社で経営している居酒屋が入っておりますので、出入りしやすいかと思いますよ』 『やっぱりそういう方って多いんですか?』 『お客様の大事な情報なので、詳細にはお話出来ませんが、職種を自営業で登録される方は少なくないですよ』 『……なるほど』  そんなやり取りを経て、店の管理の徹底ぶりやセキュリティの強さを確認し、その日の内に本登録を決めたのだった。  後日、メールでカウンセリングシート等のやり取りを行って、今日はいよいよ当日。明日明後日とオフが続くため、ちょっと体に負担をかけたって問題がない日を選んでいた。  なにか他のことで気を紛らわそうにも、緊張がなかなか収まらず、ドキドキしながらエレベーターに乗り込んだ。受付や居酒屋が入ったフロアを飛ばして、さらに上の階でエレベーターは止まる。  見学に来たとき、実際に部屋の中を見はしなかったため、行為をするための部屋があるフロアに入るのは今回が初めてだった。  職業柄、地方の収録を回るときに利用するようなビジネスホテルの一室とはまた違う、ひと目でいかがわしい雰囲気を感じる。部屋の中には大きめのベッドが設置されており、あとはシャワールームとトイレのみ。いかにもセックスをするための部屋、といった空気が漂っているのを感じる。  部屋の奥まで進んで眼鏡とマスクを外してから、ベッドに腰掛ける。とにかく緊張していた。  カウンセリングシートには『ガタイが良く、Sで思い切りいじめてくれる人。出来れば若めで、二十五の自分と同じくらい』と書いて提出した。年齢に関する希望を出したのは、比較的若い子の方が、体操のお兄さんをしている自分のことを知らない確率が高いと思ったからだった。  今日これから、どんな相手が来るかはもちろん知らない。あまりにも緊張して落ち着かないので、少しだけ体を動かそうかと腰を上げかけた瞬間。 「失礼します」  コンコンとノック音が響くと、体がぴしりと固まった。不思議と喉がうまいこと機能せず、何度か咳払いしてから返事を返した。するとすぐに、部屋の扉が開かれる。そして、今日のお相手となる人物が顔を覗かせた。  聖が待つ部屋へ入ってきたのは、カウンセリングシートに書いた通り、自分よりもガタイの良い青年だった。ぱっと見たところはそこまで筋肉質なタイプのようにも思えないが、要望通り高身長の相手をあてがってもらえるだけでもかなりありがたい。  扉を開けたまま、なかなか入ってこない相手に対し、聖は首を傾げながら声をかける。 「……あの?」 「あ、すみません、本日担当をさせていただきます、誓です」  ハッとした表情を浮かべながら、ベッドのすぐ目の前までやってきた誓を見上げる。ふにゃっと顔を崩して笑った姿には、どこか可愛らしさを感じた。  今から、この男に抱かれるのかと思うと、急に恥ずかしくなってしまう。  やや俯き気味になりながら、お願いしますと聖が呟いた。すると、誓はその場で屈んで、聖の顔を覗き込んでにこっと笑いかけてくる。 「カウンセリングシートでも確認したんですけど、俺の方が歳下ですし、そんなにかしこまらないでくださいね……あ、自分は、聖さんって呼んで良いですか?」 「うん、もちろん……なんていうか、こういうところ初めてで緊張しちゃって、むしろごめんね」 「大丈夫ですよ、今日は聖さんに楽しんでもらえるように頑張るんで、リラックスしててくださいね」

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