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 今までにしたことがなかった欲望の発散は、聖の体調を整えるのにとても効果的だった。  まず、日頃のもやもやとした欲求不満が解消された。それによって、今まで以上に仕事に集中出来るようになったし、謎の気怠さに悩むこともなくなった。  以前までは習慣的に自分を慰めてからでなければ、眠りにつくことも出来なかった。しかし、それもすっかり改善されたのだ。  ただ、ひとつだけ、今までになかった悩みが増えてしまった。自分で慰めようにも、上手に出来なくなってしまったのだ。  いつも当たり前のようにしていたことが、どうしてかうまくいかない。  前も後ろも、触っても気持ち良さを感じない。生活する上で支障をきたしてはいないが、これはこれで、聖にとっては大問題だった。  ただ、今までと違って、具体的な解決策はわかっている。ひとりで出来ないのならば、IMに行って、人の手を借りれば恐らく一発なわけで。  誓との濃厚な行為の数々が、聖の脳内に刻まれすぎてしまったのであった。  一週間程悩んでから、IMのホームページに飛んだ聖は、予約フォームを開いていた。次の予約を取ることを決心したのだ。  前回作成した会員証番号など、情報の入力をしていく途中で、スムーズに進んでいた聖の指先がぴたりと止まる。  聖の頭を悩ませたのは『指名キャスト』という項目だった。  本来ならば、前回存分に良くしてくれた誓を指名するべきなのだろうが、職業バレしていた誓に相手をしてもらうことがいたたまれなく思えた。  もちろん、誓との行為は過去一番の気持ち良さだった。誓にもすっかりバレてしまっていたが、正体を知られていることに気付いてからのことも言わずもがなである。  それならば、どうして指名キャストに悩んでいるかといえば、誓にどっぷりハマってしまいそうだということが、聖にとっては恐怖だった。  顔も体型も好みで、自分の職業を理解してくれていて、お世辞にも好きとまで言ってくれている。恋人だったり、密接な関係のパートナーとしてだったら最高の相手だが、欲を発散するための相手としてはどうなのだろうか。  スマートフォン片手に悩み続け、項目を無事に埋めた聖は立ち上がると、一日の疲れを少しでも癒すべく、浴室へと向かった。

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