10 / 36

2-3

 言ってしまえば前回トラブルを起こしてしまったわけで。予約を取った後になって、そもそも再びIMに行っていいのかどうかを悩んだりもしたのだが、予定通り聖はIMのビルに足を運んでいた。  あまり複数の店に出入りはしたくなかったし、前回サービスを受けてしまった手前、そのままフェードアウトもいかがなものかと考えてのことである。 「君野様、いらっしゃいませ。先日は大変申し訳ございませんでした」 「いえいえ、こちらこそお騒がせしてしまってすみませんでした」  本来、初回来店時以降は、事前の確認メールに記載された客室へそのまま向かうところを、到着後すぐに呼び止められた聖は受付フロアにいた。  かしこまって謝られると、逆に申し訳なく感じてしまう。相手方は誰も悪くなくて、なんなら職業バレを気にしている自分が悪いというのに、と聖は考える。 「それでですね、指名の方なんですが」  事前に提出していた予約フォームを出力したものが机の上に差し出される。  あくまで円満解決といった流れだったからか、やっぱりなにか問題があったのかと、相手方はすごく不安な表情を浮かべている。その空気を察した聖は、慌てて口を開き本音を伝えた。 「その、自分の正体がバレてるのが恥ずかしいってのもあるんですけど、誓くんすごく好みなんです。顔も体も、攻め方とかなにもかも」 「それならば……」 「あまりハマりすぎても、仕事の方に影響ありそうで……あ、あと、もう少し過激にいじめられたいかなあなんて」  相手方が困った顔をしているのもわかっていた。心苦しく思いつつも、見て見ぬフリをして、最後は適当に付け加えながら、聖は笑って誤魔化した。こう言えば納得してもらえるだろうと思ったのだ。  案の定、なんとか納得してもらえると、受付でのやり取りを終えて、エレベーターに乗り込んだ。そして、先日同様にプレイ用の部屋があるフロアで降りる。  結局のところ、この日、誓を指名することはしていなかった。  誓を選ばなかった理由としてあげた『もう少し過激にいじめられたい』というのもほんの少しだけ本心だったが、それが全てではない。受付でも語った、誓が好みで――というのが一番の理由だった。  とにかく、こういったハマり方をするのが、仕事に影響が出てしまいそうで怖かったのだ。今までこういった経験のない聖には刺激が強すぎて、のめり込んでしまう前にセーブしなければと決めていた。  ――前回トラブル起こしておいて、こんなわがまま言って、申し訳なさすぎて次からはもう来れないかも。  充てがわれた部屋に入りながら、受付でのやり取りを思い出し、盛大にため息をつく。  これが最後の来店になるかもと思うと、それこそ誓を指名しても良かったのかもしれない。  革張りのソファでゆっくりしながらそのようなことを考えていると、部屋の扉が開かれた。

ともだちにシェアしよう!