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 何日か前から、聖のドキドキは最高に達していた。  この日のことと仕事のこととを、交互に考える日々はあっという間に過ぎていき、いよいよ、約束の日を迎えた。  イレギュラーな撮影内容で仕事がいつもよりも早めに終わる日、さらには翌日が休みの日を選んで日程を決めた。  集合時間は十六時。ある程度早く到着したが、どこかで時間をつぶすほどではないため、待ち合わせ場所となっている、駅前広場の隅の壁に寄りかかる。目の前を行き交う人の波を、聖はぼんやりと眺めた。  約束の相手というのは、あのとき連絡先を押し付けてきた誓であった。  連絡先を受け取ってから、個人的に連絡をするかどうか、聖はかなり悩まされた。今までならば、なにかあったときに店側が間に入ってくれる保証があったが、個人でのやり取りになってしまえば、聖を守ってくれるものはなにもなくなる。当初、そういった部分にも魅力を感じて、その辺で出会いを探すのではなく、IMに行くことを決めたのだ。  仕事外のほとんど時間、誓とのことをどのようにするか悩んで過ごした。しかし、どんなに悩んでも、仕事に支障をきたすようなトラブルが誓との間に起こるとは思えなかった。なんなら、店に出入りするよりも余程安全なような気すらした。ビルの別フロアには居酒屋が入っているから心配ない――と説明を受けて納得はしたものの、なにが起こるかなんてわからない。なんらかの形でもろもろがバレてしまう可能性だってあるわけで。しかし、誓とふたりで過ごしているところを誰かに見られたとしても、友人で済ませられるのではないだろうか。  誓なりに答えを出して、連絡を返すことに決めたのであった。 「――聖さん、お待たせして、すみませんっ」  ぼうっとしていたところで、いきなり肩をとんとんと叩かれて、聖はハッと顔を上げた。すぐ目の前には、ぜえぜえと息を切らしている誓の姿。  左手首についている腕時計をちらりと見ると、まだ約束の十六時になっていない。  自分がいるのが見えて、慌てて来てくれたのだろうか。そう思うと、なんだか胸がきゅっと跳ねたような気がした。 「ぜんぜん。集合時間前だし、そんな急がなくても良かったのに」 「そのつもりだったんですけど、なんていうか、走らなきゃって」 「俺もついさっき来たところだから……焦らせてごめんね」 「とんでもないです。そしたら、デート始めましょうか」  誓がさらりと口にした単語に、聖の動きがぴきっと固まる。  事前のやり取りで、映画を見に行ったあと食事に行って、良ければ宿泊――というプランは聞いていた。軽く遊んだあとにセックスするんだなと理解はしていたものの、デートという認識はなかったから驚いた。なんともいえない、恥ずかしい気持ちはありつつも、特に嫌な気はしなかった。 「あ、チケット手配してて、アクション映画なんですけど」 「ああ、いま話題のやつだ」 「見たことありました?」 「ううん、DVD出たら見ようかなとは思ってたけど」 「それなら良かったです」  映画館への道中、チケットを二枚見せられると、聖の表情がにこやかに、ぱっと明るくなる。  昔から、映画館という場所が好きだった。大好きなシリーズものの映画を繰り返し見に行くこともあれば、用事の合間に立ち寄って居眠りをすることもあったり。働きはじめてからは足が遠のいていたものの、映画館という空間がお気に入りだった。

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