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 館内が徐々に暗くなっていき、上映前の他作品の予告映像が流れ始めて、そのまま本編が始まった。  スクリーンが際立つ暗さと、体内がズンズンと響くほどの大きな音。久しぶりの映画館を存分に楽しみたかったが、それどころではない。明らかに振動機能がついている、陰茎と後孔に仕込まれたローターが、いつ動き始めるのか心配でたまらなかった。  始まってしばらくは特に何も起こらず、聖が油断したタイミングで、それはついに始まった。  視線はスクリーンに真っ直ぐ向けながら、肘掛けに置いていた聖の手に、誓は自身の手のひらをそっと重ねたのだ。いきなり手を握られて、驚いた聖の体が跳ねる。指先を絡めるようにして、指の間を優しくくすぐられる。  数分間手のひらへの愛撫が続くと、今度は指先がすっと移動していく。手の甲、手首、腕、肩、鎖骨ときて、開いた襟元から手を差し込まれた。そして、左右の乳首を繋ぐチェーンを持ち上げられ、そのまま外へ出される。襟元からはみ出たU字のたるみを、誓はくっと引っ張った。 「……っンゔ♡」  重力に逆らい乳首を引っ張り上げられて、聖は身を捩った。そして、ここが公共の場であることを思い出し、声を出してしまいそうになるのを堪える。  そんな、必死に耐えている聖の姿を見て、誓がふっと笑った。次の瞬間、スクリーンの中の映像が、ド派手なアクションに切り替わり、耳を塞ぎたくなるような爆音が鳴り響く。 「く、ゔゔっ♡♡♡」  映像音声に驚いたのと同時に、乳首を思い切り引き伸ばされて、聖が思い切り唸り声を上げる。通常のシーンなら周囲に響いていた声も、過激なシーンに周囲も悲鳴を上げていたこともあって救われた。  立て続けに乳首を引っ張られ、びろびろに伸びてしまったんじゃないかと錯覚するくらい。乳首ばかりいじめられて、頭がくらくらしてきたところで、スクリーンではなくこちらに顔を向けている誓に気が付いた。 「……ん゙、っ?」  直後、しぃっと人差し指が口元に運ばれる。  ――ブブブブブッ♡♡♡  下半身につけられた二つのローターが動き始めると、聖は両手で口を覆った。微弱な振動とはいえ、ピンポイントへの刺激に声が漏れてしまいそうだった。さまざまな気持ちよさに、脳内がぐちゃぐちゃになりながらも、頭の中が不安でいっぱいになる。  映画館で、こんな、ローターのモーター音なんて、周りの人にバレちゃうかもしれない。もしバレたら、どうなるのか。いい年した成人男性が、乳首と陰茎と後孔をいじめられて、気持ちよくなっている姿を晒してしまったら――少しでも考え始めると止まらなくなってしまう。そして、その想像をして、ぞくぞくと感じてしまっている自分自身がなにより嫌だった。 「ふ、くっ……ん♡」 「ちゃんと、静かにしてないとバレちゃいますからね」  甘い声で囁かれた直後、口元を押さえていた両手を無理やり下ろされる。塞いでないと声が出てしまう、と慌てて誓に助けを求めた。声を出さないように我慢しながら、一生懸命視線だけで懇願した。すると、誓の片手がすっと伸びてきて、大きな手のひらで口を思い切り塞がれる。 「ご、ぶっ」  一ミリの隙間もないほどぴったりと密閉されると、聖の不安は多少解消された――ように思えた。しかし、口を塞がれるという行為に、聖の興奮は明らかに増していた。男の大きな手で、無理やり強いられているシチュエーションが、聖の性癖を突いていたのだ。 「ふ、ふっ、ん゙~~~ッ♡♡♡」 「……イきました?」  陰茎の先端に固定されたローターによって、呆気なく射精した。着衣の下で、コンドームの中にたっぷりと精液を放出してしまったあとは、ローターの振動をオフにされる。  その後も、映画が終わるまでの間、電源を入れられることはなかった。左右の乳首を繋いだチェーンを引っ張られることもない。それでも、またいつ悪戯されるかと思うと、聖は心配でたまらなくて、映画の内容なんて少しも頭に入ってこなかった。

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