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 この日、IMの系列店であるハプニングバーの扉を、聖はドキドキしながら開いた。  現在進行形で教育テレビに出演をしている自分のことを知っている人なんて、このような店にはいないだろう。それでも、変装しているとはいえ万が一バレてしまったら――と考えてひやひやしていたが、中に入って人の波に紛れれば大したことはなかった。  聖を含めて、この場にいる全員が、同じ格好をしている。顔を覆う仮面のようなものと、あとは下着のみ。それが本日のドレスコードである。  今日にいたるまでの間、誓と聖は店外で何度か会っていた。一緒に居酒屋に行ったり、体を動かすようなアクティビティに参加したり。最初に行った映画館で言われたような、いわゆるデートを重ねた。  毎回ではなかったが、ホテルに立ち寄ることもあった。そのときは、体中を上から下まで弄られて、たっぷり気持ちよくしてもらって――ただし誓からの挿入はなく終了する、というのがお決まりのパターンだった。挿入しない理由を聞いたことも、自ら強請ったこともなかった。試みたこともあったが、もしも拒否されたらと思うと怖かったのだ。  本人に伝えられない分、誓の考えを勝手に想像する時間が多くなった。  自分のことが好きだと言ってしまった手前、今更やっぱりなしにしたいと言い出せないのかもしれない。自分が、誓のことを好みのタイプだと伝えたから、気をつかわれていることもありえるだろう。  はじめて出会ったときからプライベートで何度か出かけたときまでの間で、誓の内面がとてつもなく優しい人であることを、聖はよく理解していた。  ――本当はもう既に、俺への思いが薄れつつあったりして。でも誓くんは優しいからこそ、人を傷つけてしまうような言動が出来ないとか。  今までは誓と過ごすことによって、欲求不満も解消されて、バランス良く日常を送ることが出来ていたはずだった。誓の熱烈な告白が営業ではなくて、本当に信じてみてもいいのかもしれない、誓にハマってみても良いのかもしれないと思い始めていたところだった。  しかし、聖は不安でたまらなかった。デートをする間隔は徐々に空いていく上に、体を交えることもない。  さまざまなことが重なって、誓のことに関して思考が後ろ向きになりつつあって、ついには仕事にも影響が出始めた。今まではしっかりとオンオフ切り替えられていたはずなのに、仕事中にも誓のことを考えてしまったことをきっかけに何度かミスまでしてしまった。そして、そこでようやく「このままじゃダメだ」と自覚した。  気を付けようとしていても、どうしても誓のことを頭に思い浮かべてしまう。最近誘ってくれなくなった、挿入してくれないのはなぜか、会いたい、聞きたい、でも向こうはもう自分のことなんて――そんなことばかり。  生活に支障をきたしはじめたところで、誓と少し距離を置いた方がいいのかもしれないと聖は思った。  このままだと、当初危惧していた通り、のめり込みすぎてしまう。ひとまず、さまざまな欲求をひとまず分散させるようにしよう――その結果のハプニングバー来店だった。  それこそ、身バレをする危険性があるのではとも悩んだが、この店には、覆面デーという催しがあるらしい。会員向けのメールマガジンで知ったそのイベントは、自由選択式の仮面と下着のみの格好が入店ルールということらしかった。自分の正体を隠すには良い条件で、かつIMの系列店ということでそこまで客層が悪いわけでもないだろうと考えた。  もともとの性癖に刺さるため単純に手っ取り早く欲求不満を解消することを目的に、ハプニングバーデビューをすることを決めたのであった。

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