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クリスマス
* * * 中野 透の場合 * * *
2人、並んで夜の町並みを歩く。
と、言っても恋人でも友達でもない俺たち。
手を繋ぐとか、腕を組むとか、そんな事出来ない。
だから なんともいえない微妙な空気と距離感を
保ったまま・・・・・かなり ぎこちない。
コイツ、見た目は女の子だし
周囲には ただの初々しいカップルにしか
見えないのではないかと思う。
───つーかさぁ
なんで俺、コイツと歩いてんの?
・・・なんだよ、デートって。
思わず、大きなため息をつくと
俺が怒ってると思ったのか
申し訳なさそうに俺を見て 謝ってきた。
『あの・・急にへんな事、お願いしてすみません。
・・クリスマスなのに独りが淋しくって・・・・・
迷惑でした・・・よね・・・・?』
『へ?!ああ・・・、いや・・まぁ・・・///』
───だから!
俺の好きな顔で上目遣いはヤメロっつーの!
うっかり可愛いとか思っちゃうだろーが!
まあ・・・・でも・・・・・まあ、独りは淋しいよな。
クリスマスに。
・・・・・・・ん?
って事は、コイツも今日を一緒に過ごすヤツは
いないって事・・・・?
・・・・・つまりはフリーって事??
って!また俺はっ!!
そんなのどうでもいいんだって////!!
そ、そんな事より・・・
『そ、そういや、話って何?』
『あ。えと・・・そうですね・・・・・・
じゃあ、近くの公園 行きませんか?』
そう言われて、公園へと足を運び、
ベンチに座る。
シーン
話があると言いながら何も喋らない。
不思議に思って隣を見ると
モジモジキョロキョロ、落ち着きがない。
『で、話って?』
寒いし、あんまり時間をかけたくない俺は
仕方なく助け船を出してやる事にした。
すると、ようやく決心がついたように
口を開いた。
『あの・・・あの時はすみませんでした。』
『・・・・・・・・・あの時?
・・・あぁ、俺が勘違いでコクった時の事?』
『は、はい。
・・・・・・・・あの、ホントは私・・・・・・
すごく嬉しかったんです。』
『・・・嬉しかった?』
『・・・・・・はい。』
『なんで?』
『そ、その・・・・私も・・・毎日あなたに会って
好きになってたから・・・です・・・////』
『・・・・・・・・。』
────なんだそれ、
今さら・・・なに言ってんだ。
『でも、あなたは・・・私の事を女の子だと
思ってたでしょ?』
『・・・は?ああ・・・・・まあね。』
───だからコクったんだし。
『・・・だから・・・ワザと あんな格好して、名刺 渡して
男だって分かるようにして断ったんです。』
『・・・・・・・・・え。』
『でも、あれから・・・あなたが来なくなって
会えなくなって、ものすごく後悔したんです。
自分が男だって事も、好きだって事も・・・
きちんと伝えて、私がフラれるべきだったって。』
『・・・・・・・・。』
────そうだったのか・・・
事情は分かったけど、何を言っていいか分からない。
ただ じっと座っていると、
アイツは スッと立ち上がり俺の目の前に来ると
深々と頭を下げた。
『私は男です。
・・・でも、あなたが好きです。』
『・・・・・・・・・え。』
『フッてください。』
『・・・・・・・・え?』
『きちんと けじめをつけたいんです。
私をフッてください。』
1度、頭を上げ、俺の目をしっかり見てから
また頭を下げる。
『・・・・・・・・あの。』
『はい・・・。』
───簡単だ。フレばいい。
バイバイでも、サヨナラでも
なんでもいいから・・・言えばいい。
でも・・・なんだろう。俺の この気持ちは。
バイバイもサヨナラも出てこない。
もともと顔が超 好みだし、話してみれば
意外にしっかりしたいい子だし・・・
やっぱ、つきあうのは無理だけど、俺は・・・
『友達に・・・なんない?』
『───え?と、友・・・達?』
『うん。イヤじゃなければだけど。』
『え!?イヤなんて・・・そんな・・・』
『始めに言っとくけど恋人としてつきあうのは無理。
それでも良ければ。』
『・・は・・・はい・・・!いいです!
恋人になれなくても・・・・友達になりたいです。』
『・・・・・・////』
嬉しそうに顔を輝かせるコイツは
やっぱり、可愛い。
なんで男なんだよ・・・!
ま、思っても仕方ないんだけど。
『えーと、お前、名前は?』
『あ、桜田 伊吹 です。』
『さくらだ・・・なんか・・・カッコいい名前・・・』
(顔に似合わず)
『はい。よく言われます・・名前負けしてるって。』
いや、名前の方が負けてる気がする・・・
『・・・俺は中野 透。よろしく。』
『はい!よろしく。お願いします!』
手を差し出すと、両手で俺の手を包んで
ブンブン上下に振る。
ってか、手が冷たい。
『体も冷えてきたし、とりあえず どっか行く?』
『はいっ!カラオケなんてどうでしょう?』
『おっ!いいね~。』
────こうして俺のクリスマスは・・・
「彼女」は出来なかったけど
見た目は女!中身は男!・・・・な
不思議で新しい友達が出来たのだった。
メリークリスマス!
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