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遊の告白★5
晃くんと同じ、っていう理由だけで選んだ大学は、母も満足いくレベルだったようで、すぐにOKをもらえた。
ルームシェアをする事も、
特になんの問題もなく許してもらえた。
高校の卒業式も来てはくれなかったけど
僕の心は、これからの晃くんとの生活への期待で晴れ渡っていた。
そして、
育った家を出ていく前夜。
部屋で、スポーツバッグに最後の荷物を詰めていると、ドアがノックされた。
『・・・はい?』
『あの・・・僕・・』
聞き慣れた声に 急いでドアを開けると、
弟の涼(りょう)が立っていた。
『入っても・・・いい?』
『・・・うん、どうぞ』
涼は、空っぽになった僕の部屋を見渡すと、
ふぅ・・・・と息をついて カーペットに座った。
『ホントに出ていくんだね・・・』
『うん・・・・』
『そっか・・・・』
『・・・・・・・・・』
少し寂しそうな涼の横顔。
母との関係は最悪だったけど、涼がいたから僕は この家で なんとか暮らしてこられた。
小さかった頃、父と母が用事で出掛けると
よく2人で留守番をした。
幼い弟の面倒を僕に任されていたこともあって、涼は僕を慕ってくれていた。
僕の中の唯一 家での楽しかった思い出。
ただ それも、涼が自分の事を自分で出来るようになるまで。
大きくなるにつれて お互い 気を使いあって、時々 話すくらいで あまり深く関われなくなっていった。
『兄さん・・・・』
『ん・・・・?』
『僕は兄さんが羨ましい・・・』
弟の口から出た意外な言葉に、
僕は驚いて、しばらく理解出来なかった。
『・・・・・・え?』
羨ましい?
・・・・僕が?
なんで?
『だって兄さんは・・・・』
涼が切なそうな顔で僕を見る。
泣いてしまうんじゃないか、っていうほど、
顔を歪めてポツリと呟いた。
『この家から・・・出ていける・・』
『え・・・・・・・・?』
『この家から・・解放される・・・』
『・・・・・・・・涼・・・?』
涼は両手で顔を覆って、体を小さく丸めて・・・
静かに泣き出した。
『僕は・・・がんじがらめだ・・・・
この家に・・母さんに・・縛りつけられて・・・』
『・・・・・』
『僕は逃げられない・・・母さんから・・・!
この家から・・・・・!』
『涼・・・・・・・』
悲痛な叫びに
僕の目からも涙がこぼれ落ちる。
知らなかった・・・・
僕は・・・
自分だけが不幸だって
思ってた
涼は、愛されていて
幸せなんだって
思ってた
僕は・・・
自分の事ばかりで
涼の事を・・・・
涼の本当の姿を・・・・
見てなかったんだ・・・
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