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ある男の告白☆2
『はい?』
遊が ハッと我に返り、不機嫌さを隠しもせず、男の手を振り払った。
『あ、突然 ごめん。俺、サークルで空手
やってるんだけど・・・人数 少なくて・・・・
あんた、結構 強かったからさ、どうかな~と思って』
その言葉に、遊の目がスッと細くなる。
『・・・・・・・悪いけど、やらない。
中学からやってないし、もう 忘れた』
無表情で冷たい言い方。
ほんのり冷気も漂っている。
『あ、ああ・・・そう・・・なんだ』
遊の、ただならぬ怒気を感じたのか、
そいつはそれ以上は何も言わず、
ペコリと頭を下げて 踵を返し、廊下を戻っていった。
遊は、そいつの後ろ姿を睨むように見ていたけど、姿が見えなくなると、肩を落としてため息をついた。
『はぁ。もう・・・・最悪』
『今の・・・誰か 思い出したの?』
『ん~、うん、まぁ。
・・・・確かに小学生の大会で よく みかけたかも。
苗字 同じだし・・・なんとなく覚えてる。』
『ふーん』
『もう、何で今さら・・・・。
っていうか、何で僕の事 分かったんだろ・・?
校区 違うから接点なかいし、空手やめてから
全然 会ってないのに・・・』
『うーん、確かに・・・。誰かに聞いた?とか?』
『ん~?んー、・・・・誰に?』
『さ、さぁ・・・?』
「なんかヤだー」
「スッキリしないー」
「気持ち悪いー」
と、遊は 頭を抱える。
『遊は、その・・・空手、また やりたいって思わない?』
“ 結構 強かった ”
なんて聞いちゃうと 気になる。
すると・・遊は
『・・・・やらない。もう2度と。
あの頃の自分を・・思い出したくない』
きっぱり言い切った。
遊が、母親に認めてもらおうって
頑張ってた空手・・・
母親に認めてもらえなかったからって、
遊のやってきた事 全部がムダだった訳じゃないと
思うんだけど・・
俺が口を出す事じゃないか。
まぁ、アイツもあれで諦めるだろう。
そんな風に軽く考えていた俺たちだったけど
その考えが甘かった、と後に 思い知らされる事になる。
思ってた以上に
アイツは・・・
しつこかった。
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