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遊の災難☆4

『ヒュー、やるねぇ♪』 ドアの外にいた男の人は、転がってきたナイフを拾うと、逃げ損ねて おろおろしている男の腕を掴んで捩りあげた。 『い・・・ってぇ!何すんだよ・・・っ!』 『“なにする?”だと?・・・・ふん。 ・・・そうだなぁ、耳でも削いでやろうか? あ、それとも鼻がいい?』 と、ナイフをピタピタ頬に当てて ニタッと笑う。 『ひっ・・・!や、やめ・・・!』 逃げようともがく痴漢男を その人は涼しい顔で 意図も簡単に 壁へと投げ飛ばした。 痴漢男は壁に ぐしゃっと激突し「ぐぇっ」とカエルが潰れたような声をあげて、床にズルズル倒れ込み・・・そして 動かなくなった。 床に転がる男たち。 1人は気を失っているけど、顔から転んだらしい あとの2人は痛みに呻いている。 その姿を見て、やっと僕は「助かった」って実感が込み上げてきた。 『あ、ありがとう・・ございました・・・』 『んー?いやいや。どういたしまして♪ ちゃんと服、着な ♪ 』 『・・・・あ////』 言われて、自分がどんな格好をしてるのか思い出して 慌ててファスナーを上げて ベルトをする。 その間に男性は、転がっていたスマホを手に取って なにやら操作していた。 『ん~、動画か・・・。写真は・・・ない、と。 あ、そうだ。お前、警察 行く?』 『警察・・・?』 『これ、犯罪だから』 『あ・・・・ああ。あ、・・・いえ・・・行きません。 何もなかったし・・・・大丈夫です』 『そ?・・・じゃあ、消すぞ?動画』 『あ・・・、はい』 『ん。OK。これでよし』 操作を終えた 男性は・・何故か倒れた男たちにスマホを向けて、カシャカシャと写真を撮り始めた。 そして、未だに 呻いているスマホ男に近づくと 今、撮った写真を見せ、 『この写真さ。お前の知り合いとか・・・会社にバラまいてやろうか。男に痴漢して、殴られました~って。』 楽しそうに笑う。 『・・・・・!!』 スマホ男がみるみる 青ざめていく。 『そんな顔するくらいなら 最初っから やるんじゃねーよ。バカが』 男の頭を殴り付け 立ち上がった男性は、SDカードを抜くと、スマホと一緒に便器に放り込んだ。 『次、見つけたらタダじゃおかねーからな。 ・・・行くぞ』 『あ・・・、はい・・・!』 まだ個室の中にいた僕は、その人を追って 外に出た。 その時、リーダー格の男が、「くそっ!」と、一言、助けてくれた男性の方へ行こうと もがきだすのが見えた。 よつん這いになった男。 前しか見てなくて、後ろは無防備・・・ その姿に 僕は・・・また体が勝手に動いて 気づけば 思いっきり股間を蹴りあげていた。 『─────っっ』 声もなく倒れた男を避けて出口へ向かう。 『お見事 ♪ 』 『・・・・・・どうも』 外に出ると、トイレから離れた所にある自動販売機のベンチまで連れていかれ、座らされた。 『大丈夫か?』 『はい。・・・あ、あの・・ありがとう・・』 『礼は いい。さっき聞いた』 『はい・・・』 お礼以外に何を話したらいいか分からなくなって ぼんやりと 足元を見ていたら・・・ 『ん』 いつの間に買いに行ったのか カフェオレの缶が目の前に 差し出された。 『飲めよ。俺の奢り ♪ 』 『あ・・・・・はい』 受け取ろうと伸ばした僕の手が震えているのに気づいた男性が プルトップを開けて渡してくれる。 『ほら』 『あ・・ありがとう・・////』 なんか・・・すごく気の利く人だな・・・ ひと口 飲んで、ホッと息を吐き出す。 カフェオレの温かさと 甘い香りで 強ばっていた体から 力が抜けていった。

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