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第3話

玄関を入って3歩も歩いていない。廊下の壁際に追いつめられて、疲れた体を預けるところがどこにもない。ここは自分の部屋なのに、何故か自分の意志では上手く歩けない。徐々に深く長くなる逢坂のキスに、いつまで付き合えば気が済むのか、柴田には分からない。もっともそんなことを考えているのがいけないのか、では他に一体何を考えればいいのか。目の前の男、その性欲も体力も持て余している若い男に、口先だけの甘い言葉などきっと通用しないのだ。分かっている。その時、ぼんやり立っていた柴田は、下腹部に急に痺れが走って歪んでいた思考がぱっと弾けて消えて行った。下を向いて正体を確かめようとする柴田の唇を、また逢坂が懲りずに塞いで、無理矢理上を向かされる。その間にも鈍い刺激が続いている。 「んっ・・・あっ・・・し、ず」 「えろいカオ、侑史くんの会社のひとにも見せてあげたいね」 「・・・やめっ・・・ぁっ」 ぼんやり立っていた柴田の足の間に、いつの間にか逢坂の足が入り込んできていて、その太ももが自分のそれを緩く刺激しているのだとややあって気付く。本気でこのままするつもりなのか、何度も今日は駄目だと言ったのに、柴田は柔らかい快楽に汚染されかかった頭で思った。側にある逢坂の肩を掴むと、逢坂が少しだけ笑ったようで振動が伝わってくる。 「侑史くん知ってる?」 着ていたシャツのボタンがどんどん外されていく。男性店員に若干馬鹿にされたかもしれない貧弱な体が、オレンジ色のぼんやりとしたライトの元にさらされる。するすると逢坂の手が慣れた手つきで、柴田の腹を撫でた。逢坂の手はいつも少しだけ冷たい。 「侑史くん、疲れたって言ってる時の方が、いつもより感じるの」 「・・・知るかよ、馬鹿か・・・」 「そう?じゃあ俺だけが知ってるんだね」 ふふっと満足そうに笑って逢坂は全く躊躇う様子なく、柴田の胸に唇を近づけた。逢坂の舌が柴田のそれに触って、実にはっきりと刺激が伝わる。柴田はそれをぎゅっと目を閉じて、逢坂の肩を掴む手に力を込めて耐えた。口から熱い息が漏れて、それが逢坂の行為に拍車をかけているのは分かったが、自分よりきっと力の強いこの男を、言葉以外の方法でどう制したらいいのか、柴田には分からない。ぴちゃりと耳音で水音がしたような気がした。わざと音を立てて吸っているなと冷静な部分は分かっているが、柴田の体は頭の言うことは聞いてくれずに、逢坂の行動を助長させる反応しか示さない。 「あっ、ん、ん」 「侑史くん後ろ向いて」 「あ、も・・・やだ・・・」 「向いてよ」 強引に体を反転させられて、仕方なく柴田は壁に手をつく。何かに支えられてないと満足に立っていることも出来ない。逢坂の肩を失って、もう頼るものが壁しかないなんて悲しい。緩々刺激を与え続けられて、足もフラフラになってきている。後ろから引っ張られて肩から腕からシャツが剥ぎ取られる。先日買ったばかりなのに、簡単に引っ張ったりする逢坂のことをひどく恨めしく思う。後ろから手を回されて、今度はベルトが外されていく。見えないのに器用なものだと、感心している場合ではない。 「しず・・・お前」 「なに?」 ベルトが抜かれる。黒のクロップドパンツに逢坂の手がかかって、柴田はそれを思わず上から押さえて止めた。思ったよりあっさり手は止まる。 「分かった、もう、するから、ベッド行こう。つれてって」 何となく嫌な予感がして、柴田はできるだけ、自分にできるだけ甘ったるい声を出して、逢坂の頭の弱い部分を揺さぶったつもりだった。 「やだ」 「・・・なん・・・―――」 止まったはずの手が動いて、ずるりとパンツは脱がされてしまった。残ったのはもう下着だけだ。ゆるゆる刺激を与え続けられて、若干形が変わっているのが下着の上からでも分かる。逢坂は最後まで迷わなかった。柴田が止める前に、それも無残に剥ぎ取られる。 「・・・お前、しょ、うきか」 「さっきのすげーかわいかった。今度もっかい言ってね」 「話聞けよ!正気か!」 「大きい声出さないで、近所迷惑でしょ」 後ろから逢坂が言うのが聞こえて、その後首筋に唇が落とされる感触がする。下着を剥いだ逢坂の手が、今度は直接柴田の性器に触れて、体がまた頭と無関係にひくつくのを柴田は止められない。そして柴田のそれを包んだ逢坂の手がゆっくり動く。 「や・・・だ・・・ぁ・・・っつ、ん」 「たまにはいいでしょ、こういうのも」 「・・・い、いいわけ・・・ん、ぁ」 いいわけあるかと言いたい唇、息が続かずに、後ろで逢坂が笑った気がした。壁についた手が汗で滑って、ぐらりと体が傾いたのを後ろから逢坂に支えられる。 「侑史くんちゃんと立ってて」 「ば、か・・・むり・・・ぁっ・・・」 「もうわがままばっかりだなぁ・・・」 呆れたような逢坂の声が後ろから聞こえて、柴田は耳が可笑しくなったのかと思った。本来ならば何故そんなことを言われなければならないと怒るところだが、そんな元気ももうない。もう、と逢坂がまた呆れたように柴田の耳元で言って、柴田の手を持ってほとんど無理矢理壁に添わせる。その手が自分の先走りで濡れていて、柴田はまた目眩がするかと思った。 「しず、いや、だ」 「ヤじゃないよ、こんなにしっかり感じてるのに」 そんなもの、触られたら誰でも勃つだろうが、と言いたい口を柴田は噤む。もっとひどいことになっては困ると思ったからだ。 「後ろ、触るよ」 「・・・うん」 もう何でもいい、はやく終われ、思って目を閉じると逢坂が頬にちゅっと音を立ててキスをした。 「今の顔エロい。好き」 口を開けばそれしか言わない若い男のおもちゃになっている。

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