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第16話

そういえば最後に女の子とこんなことをしたのは、一体いつ頃のことだったのだろう、柴田は考えた。柴田がはじめに就職した大手の事務所から真中の事務所に転職した時、長く付き合っていた彼女に何の相談もしなかったから、それで喧嘩をして結局そのまま別れることになった。後2,3年そのまま付き合っていたら、多分自分はあのまま彼女と結婚していたかもしれないと思う。真中への気持ちだって、こんなになるまで育たせることがなかったかもしれない。ひとりになって他に何もすることがなかったから、勝手に真中のことを考える時間が増えた。彼女のことだって今となっては、黙って転職したことよりも、最早彼女から気持ちが離れていってしまっていることを、察知された結果なのかもしれないとまで思う。長い間、報われない気持ちを、憧れとも恋心ともつかぬ気持ちを、よくもまぁこんなになるまで引き摺り続けたものだと思う。 「え、侑史くん、男はじめてなの?」 「フツーそうだろうが、そんなに何度もこんなことあるか」 「えー・・・俺の見立てだったらばっちりホモのはずなんだけどなぁ・・・」 「何だその見立て。っていうかお前そういう目で俺のことずっと見てたのかよ」 「うん、だって侑史くん動作がいちいちえろいんだもん。体のパーツも全部えろい」 「はぁ・・・?」 逢坂がその時一体何を言っているのか、柴田には全く分からなかったが、逢坂は楽しそうに目をキラキラさせながら、嬉しそうににこにこしている。時々薄闇の中で別人みたいな表情をする逢坂も、そうしていると柴田の良く知っているコンビニの店員で、こんな状況ではあるが、柴田はそれに少し安心していた。口から零れる言葉は無邪気なコンビニ店員とは全然違うものだったが。 「そーゆーえろいとこ全部好き、今まで頭の中で死ぬほど犯したけどこれからは本物とえっちできるんだね!俺、超幸せ!」 「・・・お前・・・これからはって・・・一回きりじゃないのか・・・」 「しかも処女だったなんて、手垢でべたべただと思ってたのに。別にそれでも良いけど!運命の女神さまは俺のことを見捨ててなかったんだ・・・」 「・・・もういい、さっさとしろ・・・」 両手を絡めてにこにこする逢坂を見ながら、柴田はお腹の中がどんどん冷えていくのを感じていた。逢坂の使っている言葉が全然理解できないものになっていくが、それが自分にとって良い内容ではどうやらなさそうだということは何となく察知していた。 「え、なに、早く欲しいって!そんなに焦んなくても侑史くんが嫌って言ってもいっぱいするから!」 「・・・違う・・・お前、あれ、だ、喋ってるとやる気失せる・・・から」 柴田が言葉を切るのに合わせて、逢坂がふざけた仕草で唇にキスを落とした。優しい気持ち、純粋で、決して自分が何かに利用してはいけない大事な彼の気持ち、そう思ったから逢坂が笑うと少しだけ胸が痛かった。でもそんなことを考えなくてももういいのだ、そう思うと楽だった。逢坂の首に両手を回して、柴田は目を瞑った。逢坂が角度を変えてもう一度キスをしてくる。唇を開いて彼の侵入を受け入れる。 柴田は男を好きになったことなんて、今までの人生で一度もなかった。真中がはじめてだった。だから自分の気持ちが憧れなのか、恋心のそれなのか、はじめのうちは判別がつかなかった。真中が氷川を思っている間は、柴田は自分の気持ちを上手く飼い慣らすことができたし、それが憧れでも恋心でもどちらでも間違ってはいないと思えた。けれど真中が不出来な新人を可愛がりはじめて、柴田の日常は反転した。もうそれは逃れようもなく強い恋だったのだと気付いた、やっと、今になって。真中が決してこちらを見ないから、氷川だけを見ていたから、柴田はそんな真中を見ているだけの現状に甘んじていられたけれど、その眼差しが日高に注がれるようになって、柴田はもしかしたらその可能性が自分にも少しはあったのではないかと思った。そんな愚からしいことでも、思わざるを得なかった。それを真中にひた隠しにし、何でもない風に装い、真中のために与えられた仕事をこなし、そしてそれ以上のこともこなし、順調に成果を上げて、頭を撫でてもらえなくても肩を叩かれれば満足だった。柴と優しく名前を呼んで、笑ってくれれば満足だったのに。 「何考えてんの?」 「・・・え?」 「違う男のこと、考えてんの、侑史くん」 「・・・―――」 鋭いなと柴田は思ったけれど、もしかしたらはったりだったのかもしれない。彼の口元は笑んでいたから。逢坂の少しだけ冷たい手のひらが、柴田の首を撫でて喉仏をなぞって下に降りていく。背筋がまたぞくぞくと波打った。こんな時に他に何を考えればいいのか、どんな顔をすればいいのか、柴田には分からない。回したままだった手をぎゅっと締めると、逢坂が俯いたままくつくつと笑った。 「締めないで侑史くん。あんまりひっつかれると、できないから」 「・・・あ、ごめん」 謝りながら、何でこんなことを逢坂に言っているのか分からなくなった。逢坂は俯いたまままた笑い、柴田の平たい胸を撫でた。 「・・・ぁ」 唇から不意に熱い息が漏れて、柴田はかっと顔が赤くなるのが分かった。逢坂はもうこっちを見ない。そのまま唇を開くと、柴田の胸の突起を食んだ。びくっと体が震える。そのまま逢坂が舌でそれをやわやわと刺激すると、柴田の体がそれに合わせるようにびくびくと痙攣する。 「あっ、や・・・」 「侑史くんここ、女の子に触らせたことある?」 「ば、馬鹿か・・・あるわけ・・・ぁ、ん」 そっかと小さく呟き、右を逢坂は口に含んだまま、左は指先で摘まんだ。指の腹で扱くようにしてやると、それが尖って上を向く。まるでもっとと強請るように。男に触られている嫌悪感とか、はじめてならもっとありそうなものなのに、逢坂は頭の隅で考える。 「ね、乳輪と乳頭だったらどっちがきもちい?」 「わ、わかんな・・・ん、はぁ・・・」 「そっか、分かんないくらいどっちもいいか」 ふ、と逢坂に息を吹きかけられ、柴田の体はまた跳ねる。面白くなって逢坂は、今度は左を口に含んだ。しっかり尖っているそれを、宥めるようにして舐めるけれど、それでもどんどん硬くなっていく一方だ。柴田は苦しそうに熱い息を吐いて、震える体を沈めようと躍起になっている。 「ん、あっ、やや、だっ」 「なんで、良さそうだけど」 「そこ、ばっか、やだ・・・ぁ」 「・・・えろい声」 逢坂は笑って、じゅると音を立てて柴田のそれを吸った。回された手にまた力が入って、ベッドの上の体がくねって跳ねる。 「し、しず・・・っ」 「あ、名前、なに?」 「か、みのけ、こそばい」 首に回っていた柴田の手がゆっくり動いて、逢坂の長い金髪を下から掬うように撫でた。

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