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第18話
本当に言った通り、暫く逢坂がそこに指を突っ込んだままにしているので、本当に彼の言うとおり段々と異物の感覚がなくなってきた。じわっと高い体温同士が交じり合い、どこまでが自分の体でどこからか逢坂の指なのか分からなくなってくる。短く息を吐けば唇が勝手に息を吸うので、柴田の茹だった頭にも酸素は届き、正体の分からない不安はとりあえず一旦影を潜めていた。
「大分解れてきたね」
低い声で逢坂が呟くみたいに言い、今まで入っていた指がずるりと抜かれる。一瞬、ふっと体が軽くなったような気がした。それにほっとしている場合ではないことを柴田は分かっているつもりだったが、解放された体は自分のものではないみたいだった。
「・・・ぁ」
「ふ、そんな物足らないみたいな顔しないで、侑史くん」
「・・・してね・・・」
逢坂の手が柴田の肩を掴んで、耳元に長い髪の毛が当たる感触がした。変わらずそれが頬を擽るようにする。そのままそこで囁かれた。
「これから俺のをあげるから」
「・・・聞け、よ・・・」
耳元で逢坂が笑った気配がして、そのまま離れる。ちらりと柴田が後方を見やると、ゴムのパッケージを咥えた逢坂と目が合う。用意周到だ、それともそんなものを逢坂は日頃から鞄に入れて持ち歩いている人種なのだろうか、分からない。
「侑史くん、このまま後ろからが良い?それとも前からする?」
「・・・どっちでもいい」
「侑史くんの体のこと考えたら後ろからの方が楽と思うんだけど、俺が顔見たいから前からでいい?」
「・・・すきにすれば・・・」
それに気のない返事をすると、そのままごろんと体が反転させられた。また天井、ぼんやりした視界に逢坂の金髪が紛れ込む。
「じゃあこっち」
笑う彼の姿が時々制服姿の逢坂とダブって見える、性質の悪いことに、まだどこかで彼の優しい気持ちを信じているのだと柴田は思った。けれどもしかしたらあれは夢ではなかったのだろうかと柴田に思わせるほど、現実は余りにも現実感を欠いている。
「痛かったら言って」
「・・・うん」
「気持ちいい時も言ってね」
ふふふ、とふざけたように笑ってから、逢坂は体を折って柴田の唇の端にキスをした。そしてそのまま片足が、ぐっと持ち上げられる。思ったよりも恥ずかしい格好になり、柴田は焦ったが、逢坂は口元を歪めたまま、適当にそれを宥める。
「挿れるよ」
太ももの内側に逢坂が一度キスをして、そしてゆっくり目を開ける。ぐっと体重が前方にかかって、ローションで滑る孔が急激に広がる。先程までとは比べ物にならないほど、確実な体積を持って、それが侵入してくるのが分かった。柴田は思わずそれから逃れようとして、ベッドの上に体をずらそうとしたが、逢坂に足を捕まえられているので上手くいかなかった。
「う、あ」
「逃げちゃだめだよ、侑史くん」
「だ、だって、ああ、っ」
ローションのおかげなのか、散々慣らされたのか良かったのか、その時確かに痛くはなかったのだが、それ以上に不安になるほどの圧迫感と苦しさで、柴田の体はまたびくびくと震えて跳ねた。両手で何か掴みたいと思ったけれど、こんな時に逢坂に掴まるのはやっぱり癪だった。
「前、触ってあげるね、こっち集中して」
「あっ、ん、やっつ」
急にまた逢坂が柴田の性器を握り込み、意識がぶれる。びりびりと爪先まで単純な快楽が走っていく。そちらに意識が集中したせいで体の力が急にふっと抜けて、ずずっと後ろ孔が逢坂を深く飲み込んだのが、感覚のずっと向こうで分かる。
「そう、力抜いてね」
「あ・・・あぁっ、ん、し、ずっ」
「な、に、全部入ったよ」
目を開けて見れば、逢坂の額にきらっと光るものが見えた。汗をかいているのだと、柴田は勝手にくねる体に対して自分のコントロール力が、あまり効力がないことに困惑していたが、一方でどこか冷静な部分で、ぼんやりとではあるがそれを視界の隅に捉えていた。
「ちょっと待つ・・・?ごめん、俺のほうが、あんま余裕ない、かも」
ふふっと声を出して笑って、逢坂は柴田の頬に張り付いた短い髪の毛を避ける。そして体を折ってそこにキスをすると、また深く差し込まれたようで、柴田の体がびくびくっと震えた。信じられないくらい苦しかったけれど、そのままいくら待っていたってこの状況が良い方に動くとは思えなかった。
「・・・う、ごけば・・・」
「いいの、だいじょう、ぶ?」
「俺も、この、ままは、やだ・・・」
吐くばかりで、そのうち酸素が足りなくなってくる。ぼんやりとしか見えない逢坂の顔が、また少し歪んで笑みの形を作る。
「侑史くん、えろいなぁ。今の録音して、何度も聞き、たい」
「・・・は、うるさ・・・」
ひゅっと喉の奥が締まって音を立て、言いかけた柴田の唇から音が出なくなる。足をまた持ち上げられて、ぐっと奥まで突かれる。
「ん、う、あっ」
「しんどくなったら、言って」
「あんんっ、ぁ、はっ」
「頑張って止める、無理だったら許して」
何だそれは、逢坂の笑う微かな声を聞きながら、柴田は思った。
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