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汚い俺に絡む腕
最寄りの駅まで走って、自己最短記録で家に帰り着いた。
「ルナ!」
「にゃーっ! にゃ?」
思っていた通りに駆け寄って来たルナを、靴も脱がずにしゃがみ込んで抱き上げる。
俺より高い体温のルナの身体を抱いていると、一度思い出してしまった情けなさや惨めさが堰を切ったように溢れ出て、涙が止まらなくなった。
初めての恋人だった。両親は幼い弟を連れて海外赴任に行っていたし、俺は学校以外じゃいつも一人で、寂しかった。
彼女が笑ってくれたら、その心の中の穴が塞がるような気がしたから、バカみたいに必死で。
仕送りの生活費切り詰めて、バイト始めて、彼女が行きたいと言う所、これ可愛いなぁ、と呟く物、美味しそう! と目を輝かせる物……可能な限り叶えてあげられたと思う。俺の前じゃ彼女は笑っていたんだから、だからもう良いじゃないか、と思う。
思うのに、心の穴は以前より大きくぽっかりと空いたままだ。
「……ルナは、ルナ……は、俺を一人にしないよな? 俺を裏切ったり……しないよな?」
ふかふかのルナの毛が頬を撫でて、くすぐったいはずなのに、俺の涙が張り付いてしまって、ルナに申し訳ない気持ちになる。
汚してごめん。今だけ、ちょっとだけ。
胸の穴が塞がる気がするんだ。
ルナ、ごめん……。
大人しく抱かれてくれているルナの背中を撫でていると、頬をペロリペロリと小さな舌が這う。
「慰めてくれんの? ありがとルナ。俺ダセェな……」
猛烈に寂しいと思った。
こんな小さな子猫にすら縋りたくなる程に寂しくて、それに目を瞑っていたのだと自覚した途端、俺はルナに甘えてボソボソと胸の澱を吐き出した。
「……ボッチじゃないんだぞ? でもさ、怖いんだ。もう三年も経つのにさ、俺のいないトコでまだ嘲笑 ってるんじゃないかって……友達なのに疑って……ちゃんと俺笑ってると思うんだけど、笑えてるかな……もう本当にどうでも良いって思うのに怖いんだ、また裏切られるの、考えたら、すげぇ、怖くて……」
嘲笑うような友達はいない。
あの時も張本人の俺以上に怒りまくって何故か俺が宥めたくらいだ。
もっと怒れ! と責められたくらいだ。
毎回合コンに誘ってくれるのも、早く次の恋愛して完璧に忘れちまえ! って事だろうと予想はしている。
ありがたいと思うのに、心のどこかで疑って、友達を信じきれない自分が汚くて嫌いだ。
「……泣かないで……」
腕の中から、あり得ない二本のすらっとした腕が伸びて、首に回された。振り解こうにも予想外に強い力にパニックになりそうだ。
「な、何? え? ルナは!? てか誰? どこから入った!?」
ふっと絡んだ腕の力が抜けた。
見下ろすと、青味がかった長い黒髪をした金色の目をした美少年がいた。
全裸で。
「ルナだよ? ルナだってば!」
初対面の美少年は泣きじゃくりながら自分がルナだと言い張った。
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