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第9話

菱との約束が決まってまず梓がしたのは、どんなプレゼントが良いと思うか、梨音に意見を求めることだった。菱の妹の双子は中学生らしいが、梓には中学生の姉妹はおろか知り合いすらいない。中学生に流行している可愛いアイテムの引き出しなんてない。菱とのデート―これは梨音が言っていた言葉を借りているだけ―は金曜の夜。奇跡的にシフトの休みが被ったからだ。残された時間はかなり少ない。  焦って半ばパニックになりかけた梓に梨音が言ったのは至極真っ当な方法だった。 「本屋行って雑誌に相談」  平日の昼下がり、講義をひとつサボタージュして訪れた本屋。もちろんティーン雑誌のコーナーに人はほぼいなかった。大学生男子二人が立ち読みするにはかなりハードルの高い雑誌たちを前に梓がしどろもどろしていると、梨音がしれっと言った。 「こういうのは興味のないふりで手に取るの」  いかにも暇つぶしです、といった梨音の迫真の演技に心の中で拍手を送ると、梓も後に続いた。  ディスプレイされていたティーン雑誌にひと通り目を通したところで、梓と梨音は一つ目の本屋を退店した。つまり、この後数軒はしごしたのである。  人生で初めての本屋のはしごを終え、慣れないポップ体の見出しの海に疲れ果てた梓が梨音と共にカフェで一息ついていると、現れたのはフリアだった。どうやら梨音が招集をかけたらしい。 「ファッションはプロフェッショナルに頼むべき」  梨音がそう言う通り、身近な友人で間違いなくダントツでおしゃれでセンスが良いのはフリアである。そういうわけで、梓と梨音は遅れて現れたイエス様たるフリアに十字を切った。  これまた数軒のカジュアルブランドをはしごし、清潔感と気軽さを兼ね備えた大学生の休日コーデが完成した。材料は白のクルーネックシャツにアースカラーの薄手のブルゾンジャンパー、ストレートのデニムに黒のスニーカー。  どれだけ拝み倒しても感謝しきれない友人二人のおかげで、まるっきり自身のない梓でも少しだけ胸を張って歩ける。 緊張で昨夜から落ち着かなかった心臓のせいか、菱との待ち合わせ場所に到着したのは集合時刻の三十分も前だった。 「今日も今日とて焦りすぎ……」  菱への到着報告は集合十分前くらいにしておこう、とひっそり心に決めた瞬間、後ろから声がかかった。 「梓?」  あ、の音で分かった。我ながら気持ち悪い。ぎくりとしながら恐る恐る振り返ると、そこには思った通りの人物がきょとんとこちらを見ていた。 「りょう……?」  驚きに目を丸くしていた菱だったが、直後、眉をさげて仕方なさそうに笑った。 「早いなあ。俺がいちばんかと思ったのに」  一番取られちゃったなあ、と。  のほほんと笑う菱に心の中で悶絶しつつ、梓は神に感謝した。無神論者ではあるけれど。

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