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第16話

 息を大きく吸って吐き出す。意識して深呼吸を繰り返しているうちに、どくどくと異様なほど高鳴っていた心臓は落ち着きを取り戻すようだった。  それでもあの時鮮烈に走った悪寒は、その名残を背中に残している。思い出そうとしなくても、ずっと背筋がぞくぞくしていた。  不意に、ぼうっと見ていた目の前のテーブルにティーカップが置かれる。はっとして視線を上げると、部屋を出ていた史也がホットミルクティーを入れて戻ってきたようだった。 「あ、ありがとう、ございます」  まだ少し声が震える。どもりながら不器用に感謝の言葉を伝えると、史也は小さく頭を振って視線で気にするなと訴えてくる。そして梓にもう片方の手で持っていたものを差し出してきた。 「あ……これ」  目の前に出てきたのは、薄手のタオルでくるまれた保冷剤だった。 「右のこめかみの辺りだったか? とりあえず冷やしとけ」  ぎこちなく保冷剤を受け取ってこくりと頷くと、あとはよろしくと海に言い残し、史也は休憩室を出ていってしまった。  受け取った保冷剤を史也に言われた部位に当てる。正直、色々な衝撃で脳が混乱しているのか、どこが痛いのかよく分からない。思考もずっと停止したままで、梓はじっと空を見つめて動けないでいた。その間、隣にいた海はずっと梓の肩をゆっくり、ゆっくりと温かい手で撫でてくれていた。

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