2 / 99

第一章・2

「ま、どーせ頭でっかちのガリ勉くんなんだろーけどさ」  そして、ヤクザの息子である自分に、へこへこと頭を下げて見せるのだ。  今までの家庭教師は、みんなそうだった。  ぶぅ、と頬を膨らませながら、大翔はデスクにテキストを乱暴に積み上げて、家庭教師が来るのを待った。  そこへ、廊下を歩いてくる人の気配が。 「先生、どうぞ。こちらが大翔さんの勉強部屋です」 「ありがとうございます」  そんな声が、ドア越しに聞こえてくる。 「来た!」  つまらない奴だったら、初日でクビにしてやろうと大翔は身構えた。 「大翔くん、入ってもいい?」  入室にお伺いを立てて来る家庭教師なんて、初めてだ。  それに、とてもいい声。  聞く人間の心を、穏やかにしてくれる。  そんな美声の、家庭教師だった。 「ど、どうぞ」 「お邪魔します」  入って来た青年に、大翔は一瞬で心を奪われた。  ダークブラウンの、さらりとした髪。  白い肌に、整った品のある顔立ち。  清潔感のある、服装。 「岸 楓(きし かえで)です。よろしくね」 「あ、本城 大翔っす」  照れ隠しに、大翔はわざとぶっきらぼうに応えた。

ともだちにシェアしよう!