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第一章・2
「ま、どーせ頭でっかちのガリ勉くんなんだろーけどさ」
そして、ヤクザの息子である自分に、へこへこと頭を下げて見せるのだ。
今までの家庭教師は、みんなそうだった。
ぶぅ、と頬を膨らませながら、大翔はデスクにテキストを乱暴に積み上げて、家庭教師が来るのを待った。
そこへ、廊下を歩いてくる人の気配が。
「先生、どうぞ。こちらが大翔さんの勉強部屋です」
「ありがとうございます」
そんな声が、ドア越しに聞こえてくる。
「来た!」
つまらない奴だったら、初日でクビにしてやろうと大翔は身構えた。
「大翔くん、入ってもいい?」
入室にお伺いを立てて来る家庭教師なんて、初めてだ。
それに、とてもいい声。
聞く人間の心を、穏やかにしてくれる。
そんな美声の、家庭教師だった。
「ど、どうぞ」
「お邪魔します」
入って来た青年に、大翔は一瞬で心を奪われた。
ダークブラウンの、さらりとした髪。
白い肌に、整った品のある顔立ち。
清潔感のある、服装。
「岸 楓(きし かえで)です。よろしくね」
「あ、本城 大翔っす」
照れ隠しに、大翔はわざとぶっきらぼうに応えた。
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