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第八章 初めてのキス
「じゃあ、今日の勉強はここまで」
「やったぁ!」
大翔が、ペンを置いた。
楓は、心の準備をした。
この後は、嵐のように激しい大翔の性欲を満たしてあげなくてはならないのだ。
だがしかし。
「先生、気を付けて帰ってくれよ。難波が付いてるから、大丈夫とは思うけど」
「え? 大翔くん、今日はいいの?」
ん~、と高い声で唸った後、大翔は笑顔を寄こした。
「ヤりたくない、って言ったら嘘になるけど。でも、先生も疲れてるだろ」
どうした心境の変化だろう。
楓は戸惑ったが、そんな大翔の心遣いに嬉しくなった。
(大翔くん、ちょっと大人になったのかな? お友達ができた、って言ってたし)
バッグを手にして立ち上がった楓に、大翔は遠慮がちにつぶやいた。
「あの、さ。キス、してくれっかな」
キス。
そう言えば、大翔とキスをしたことは一度もない。
いいよ、と楓は彼の口に唇を重ねた。
それだけで、おしまい。
大翔は初めて、楓に性交を強いることなく部屋から出した。
それでも、ぽぅっと夢見心地だった。
「キス……、いいかも……♡」
柔らかく温かな楓のぬくもりが、その一点に、短い時間に集約されていた。
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