64 / 99

第九章・3

 ずるり、と体が動いた。  聖也が大翔を立たせようと、一生懸命腕を引っ張っているのだ。 「本城くん、立って」 「放っといてくれよ」  そういう訳にはいかない、と聖也は大翔を手近なカフェに押し込んだ。 「本城くん。はい、カフェオレ」 「……サンキュ」  しばしの沈黙の後、聖也は口を開いた。 「これから、楓先生とどういう風に付き合うつもり?」 「もう、どうでもいいや。今まで通り、盛ってやるさ」 「それはダメだよ!」  聖也の大声に、大翔だけでなく周囲も驚いた。 「難波さんとデートしてたから、先生のこと嫌いになった?」 「そんなわけ、あるか。好きだぜ、今でも」 「だったらやっぱり、先生のこと大事にしてあげるべきだよ。フラれる日まで、恋は続くんだよ?」 「フラれる日まで、かぁ。その日は近いな。難波は、イイ男だもんな」  男前だし、頭いいし、しっかり者だし、親父の信頼も厚いし。 「でも、本城くんにしかできない愛し方もあると思う」 「俺にしかできない?」 「具体的には解んないけど、人にはそれぞれ個性があるから」  お前、いいこと言うなぁ、と大翔は顔を上げた。 「将来、学校の先生にでもなれよ。担任の先公なんかより、ずっと向いてるぜ」 「とにかく、諦めないで。ね」  俺にしかできない、愛し方。  その言葉を、大翔は胸にしっかりと刻んだ。

ともだちにシェアしよう!