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第九章・6

 1月になり、大翔の受験も秒読み段階に入った。 「今までの努力、絶対に実るから!」  楓はそう言うと、大翔にお守りを渡した。 「これ、ひょっとして手作り!?」 「わ、解っちゃった? 縫い方が下手だから」  そんなことない、と大翔は跳ねて喜んだ。  この時期のお守りにありがちな『合格』の文字ではなく『勝利』と刺繍がしてある点も、大翔は気に入った。 「さっすが先生、俺の性格よく解ってるよなぁ~」 「大翔くんにふさわしい言葉だと思うから」  でもさ、と難波が淹れてくれたお茶を飲みながら、大翔は少々弱気だ。 「夜中に目ぇ覚ますこともあるんだ。テスト真っ白で提出する夢見て」 「大翔くん、繊細なところあるからね」  ああ、ホントに楓先生は、俺のこと何でも解ってる。  難波と楓が付き合っていると知ってから、大翔は全く性欲を欠いていた。  不能に陥ったわけではない。  聖也相手になら勃つし、そんな関係も続けている。  ただ、楓が本当に大切で愛おしくて。  自分が楓を抱けば、苦しむのは彼だということに気づいたのだ。  楓を苦しめるような真似はしたくない。  それが、大翔の選んだ『大翔にしかできない愛し方』だった。

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