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第九章・7

 大翔の受験当日、楓は神社にいた。 「神様、どうか大翔くんが合格できますように」  一心不乱に、祈った。  ヤクザの息子を不合格にした家庭教師になりたくない、という理由からではない。  心の底から、あのワルのふりをした素直な少年の合格を願っていた。  冷え込む朝から、受験の終わる夕刻まで、必死にお百度を踏んだ。  今日は征生も大翔につきっきりで、楓の傍にはいない。  もともと、大翔のボディガードなのだ、彼は。  寒さで足先の感覚がなくなり、指先が痛いほど凍えた。  それでも楓は、ただ大翔のために祈った。 「神様、どうか大翔くんが合格できますように」  楓の頭の中は、初めて大翔でいっぱいになった。  僕が征生さんと付き合ってるって解っても、変わらず明るかった大翔くん。  正直、荒れて殴られるかもしれない、とさえ思ったものだ。  だが、大翔はただ楓を愛した。  楓に何もしないという方法で、愛し続けた。 「僕が、苦しまないように、って。まだ高校生なのに、そこまで考えてくれて」  思わず、涙がこぼれた。 「傷つけてごめんね、大翔くん」  受験、がんばって。  楓は、そう祈ることしかできなかった。

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