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第十二章・6

 まずは、映画だ。  当初の考えでは、楓に好きな作品を選んでもらう予定だったが、予定は未定、大いに狂った。 「大翔くんの観たいものを選んでいいよ。今日は、合格祝いなんだから」 「そう? じゃあ、これ!」  大翔はアカデミー賞候補の名作を選んだ。 (本城くん、やるね。何気に楓先生の好みを掴んでるよ) (そんなんじゃ、ないって。聖也と付き合ううちに、自然と身に着いたんだよ)  映画は、笑いあり涙ありの、素敵なストーリーだった。  ラストは、感動の別れと新しい出会い。  今の大翔には、ぴったりの内容だった。 「くそぉ。泣けてくるぜ」 「本城くん大丈夫? ハンカチ、いる?」  大翔と聖也のやり取りを、楓は微笑ましく見ていた。 (いつもなら僕がするようなことを、聖也くんが代わりにやってくれてるみたい)  征生を見ると、彼も目を細めて二人を見ている。 「よかったね、征生さん」 「ああ。大翔さんにも、新しい出会いがあったんだな」  うなずきあい、寄り添い合った。

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