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第十二章・9
ダイナミックなイルカのプログラムを見て興奮した後は、静かなクラゲドームに入った。
癒しの音楽の流れる中、暗いドーム内に照明で浮かび上がった水槽が並んでいる。
「とっても、綺麗」
「楓の方が、綺麗だ」
「また征生さんったら、そんなこと言って」
そっと彼の肩に身を預けると、長い腕で抱きしめてくれた。
(ありがとう、征生さん。そして、大翔くん)
二人の愛する男に、楓はお礼を言っていた。
「本城くん、どうしたの?」
「いいから、少しこっちに寄れ」
大翔は聖也を抱き寄せると、その唇にそっとキスをした。
(本城くん!)
(静かに!)
キスを終え、大翔は聖也に頬を寄せた。
「ありがとうな、聖也。俺が男になれたのは、お前のおかげだよ」
「男、って。本城くんはどこから見ても男じゃないか」
「バッカ。今までの俺は、男じゃなくてガキだったんだよ」
「そんな。僕のおかげだ、なんて。そんな」
大翔はそんな聖也の手を取り、再び歩き出した。
(そして、もう一人。楓先生も、俺を男に導いてくれた人だ)
結ばれはしなかった。
だが、決して忘れることのない人だ。
大翔は、満ち足りていた。
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