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第13話 ふたつの告白

 店を出て雄吾(ゆうご)に電話した。彼はすぐ出たが、不自然なほど明るい声だった。 「冬馬(とうま)? ごめん俺、せっかちで。うちに君の服とか靴があったんだよな。今どこにいる? 届けに行くよ」  冬馬は自分の緊張を和らげようと、息を大きくついて彼に答えた。 「お話したいこともあるので、雄吾さんのお家に取りに行きます」  雄吾の返事には一瞬の間があったが、さり気ない態度を貫くと決めたようだ。 「わかった。じゃあ、袋に入れておくから」  雄吾の部屋のチャイムを押すと、雄吾が大きな袋を持って出てきた。 「ごめんな、うっかりしてて。はい、これ冬馬のスーツと靴」  彼は自分を追い返そうとしているようだった。冬馬は、雄吾をきっと見つめた。 「お話したいことがあるんです。入れてもらえませんか?」  雄吾は僅かに苛立った表情を見せた。部屋の奥から、晴海で会った男性が出てきた。玄関先で二人が話し込む気配を感じ取ったらしい。彼の姿を見て、冬馬の胸はズキッと痛んだ。昨日は自分に優しく口付けた雄吾は、今日はこの人を抱こうとしているのだろうか。  男性は腕を組み、試すような表情で雄吾と冬馬を見比べた。そして部屋の奥から上着とバッグを手にして玄関に戻ってきた。 「雄吾。ボク買い物したいから、駅前のモールに行ってくる。話が済んだら連絡して」  彼はチラリと横目で冬馬を見、雄吾の部屋から出て行った。 雄吾は背中を向け、ずかずかと部屋の中に戻りながらボソッと言った。 「……上がれば?」  机の上でノートパソコンが開きっぱなしになっていた。何気なく目を向け、冬馬は息を呑んだ。スマホで雄吾が撮影していた冬馬の写真が大写しになっている。冬馬の目線に気付いた雄吾は、慌ててパソコンを閉じた。 「スマホのバックアップ取ってたんだ」  バツ悪そうに彼は言い訳した。 「で、話って何?」  雄吾の表情は固く、口調は冷たかった。しかし、せっかくここまで来たのだ。勇気を出して自分の気持ちを伝えよう。冬馬は、ひとつ息を吸ってはっきりと伝えた。 「明日まで、雄吾さんと一緒にいさせてもらえませんか?」 雄吾は大きな溜め息をつき、苛々と前髪をかき上げた。 「……だから、それはダメって言ったじゃん」  冬馬は必死に食い下がった。 「これでお別れするのは、嫌なんです。  ぼ、僕は……、雄吾さんが好きです」  緊張のあまり噛んでしまった。雄吾は目を見張って自分を見つめている。頬が熱い。彼への好意は、これまでも表情や態度に表れていただろう。でも、言葉にしたのはこれが初めてだ。 「僕もゲイです」  短く打ち明けると、雄吾の顔には更に驚きの色が浮かんだ。昨夜葛藤していた冬馬の姿を思い出しているのかもしれない。彼は無言でまじろぎもせず自分を見ている。話を続けて良いと理解し、冬馬は核心に踏み込んだ。 「以前から自分でも薄々気付いてはいました。でも、認めることはできなかった。怖かったし、恥ずかしかった。雄吾さんと出会って、自分を偽らない姿が素敵だと思いました。僕も、心の中では自分の性的指向をあるがまま受け入れる。そう、決心がつきました」  カミングアウトと恋心の告白。冬馬の人生で初めてのことが二つも重なり、心臓が口から飛び出そうだ。 「……君は将来を約束された御曹司だ。高い志もある。きっと輝かしい未来が待ってる。立派なご両親は、愛する一人息子が犯罪者になったら、どれだけ悲しむか。君の経歴に、傷なんか付けられない。だから、憎まれ口を叩いて追い返したのに……」  切なげに眉をひそめて目を逸らした雄吾の姿に、ママの見立ては正しかったと確信した。冬馬の将来を気遣ったから、彼は嘘をついて冷たく自分を突き放したのだ。  もう一つ言わなければいけないことがある。冬馬は、再び大きく息をついた。 「ケニアでは、同性愛は犯罪です。だから、僕は雄吾さんに何も約束してあげられません」  彼は、冬馬の言葉に苦しそうに唇を噛んだ。 「これから先、僕は一生誰にもカミングアウトせず、誰とも抱き合わないかもしれません。あなたと過ごせる時間も、あと少ししかない。でも、今はあなたと一緒にいたい……。今夜だけでいい、僕を抱いて欲しい」  言い終わるや否や、目を逸らしていた雄吾が冬馬を振り向いた。互いの目には恋の熱情が燃えさかっている。彼はもどかしげに冬馬を壁に押し付け、唇を(むさぼ)った。ぎこちなくはあったが、冬馬も精一杯キスに応えた。

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